【ズームアップ甲子園】第88回選抜高校野球大会第2日の21日、第1試合で釜石(岩手)が甲子園初勝利。2―1で小豆島(香川)との注目の21世紀枠対決を制した。今年に入ってからの練習試合は9連敗。お世辞にも強いとはいえないチームが今年初白星を聖地で飾った裏には「涙の手紙」と「笑いの写真」という佐々木偉彦監督(32)の“粋な計らい”があった。

 東日本大震災で大きな被害を受けた故郷を元気づける1勝だ。釜石のエース・岩間(3年)は毎回のように走者を背負いながらも粘りの投球。9回の一打同点の場面も二ゴロに打ち取り、122球、1失点で完投した。小学6年のときに被災し、母の成子さんは行方不明のまま。それでも「母が一番応援してくれたから」と野球を続けた。「震災の苦難を乗り越えて負けない精神力がついた」と話した。

 打線は3回に相手投手のボークや犠打で走者を進めてチャンスメーク。震災による津波で自宅は全壊し、金銭面を考えて高校入学後に、一度はバドミントン部に入った佐々木航(2年)の中前適時打で先制した。1―0の8回には一死から佐々木航の3本目の安打で突破口を開き、3番・奥村(3年)の適時二塁打で加点した。

 決してチーム状態はよくはなかった。年が明けてからの練習試合では9連敗し、9試合で108失点。そんな釜石ナインが21世紀枠対決を制する原動力となったのが「涙の手紙」と「笑いの写真」だ。

 試合前日、佐々木監督の計らいにより選手のもとに手紙が届けられた。それぞれの家族が「今までやってきたことを思い出して、まずは野球を楽しむことから」「夢の舞台を、思いっきり楽しんでおいで」などとつづったもので、佐々木航は母から「お金の心配をさせてごめんね」という手紙をもらった。この粋なサプライズに、選手の中には感激のあまり涙ぐむ者もいたという。

「笑いの写真」は3月上旬の練習試合で、自身が打ったファウルボールが地面に跳ね返って股間を直撃し、無言でもだえる中村(3年)の姿をとらえたもの。その時もナインは大爆笑だったそうだが、それが甲子園試合前夜のミーティングの最後にプロジェクターを通して映し出され、またまた大爆笑でみんな一気にリラックス。大一番に向けての緊張をほぐした。これも佐々木監督の“仕込み”だった。「最後のミーティングだし、また“感動モノ”がくるのかなと思ったらアレで。監督はいつも斜め上を行きます」(ある選手)

 涙あり、笑いあり。東日本大震災から5年目の春に大輪の花を咲かせた釜石ナイン。野球ができることを喜び、感謝し、2回戦(対滋賀学園)も聖地で思う存分プレーする。