熱戦が繰り広げられている第97回全国高校野球選手権大会(甲子園)。注目の清宮幸太郎内野手(1年)を擁する早実(西東京)は、13日の2回戦で広島新庄(広島)と対戦する。スターの階段を駆け上がる新怪物だが、実はチーム内にはその「お目付け役」というべき怖い存在がいる。常に清宮を「一喝」する“鬼軍曹”。早実の副主将を務める渡辺大地外野手(3年)だ。

 清宮は初戦(8日・今治西戦)、甲子園初安打初打点でチームの勝利に貢献した。貴重な追加点を叩き出す勝負強い打撃に、チーム内も怪物16歳を絶賛。人懐っこいところも手伝って、加藤主将(3年)は「本当にかわいい存在。ちょっとふてぶてしく見られるところもあると思うが、そんなことはなくて、みんなに愛されています」とチームの顔となった後輩に目を細める。

 自主性を重んじる和泉監督の指導方針もあってノビノビ成長している清宮。しかし、そんなスーパー1年生にも“怖い存在”がいるという。それが中学時代の調布シニアの先輩だった渡辺だ。

「アイツ、いろいろ聞いてくるんですよ。やっぱり頼りにされると、かわいいですよ。練習も真面目にやりますし、実力も間違いない」と実力に太鼓判を押す渡辺だが、一方で「だけど、僕はアイツを甘やかそうとは思っていません。気持ちの切り替え方というか、考え方は『1年生』ですから。そういうところを、厳しく言う人間がいないといけないと思うんです」ときっぱりだ。

“直系の後輩”だけにかわいくて仕方ない。だからこそ、言いたくなることがある。初戦の試合中もゲキを飛ばしていた。「アイツは走塁が雑なんですよ。第1打席で一飛を打ち上げて一塁まで全力疾走しなかった。ひょっとしたら一塁手が落球するかもしれないのに。だから『いつも言ってるだろ! しっかりやれ!』って怒ったんです」

 西東京大会でも鋭い当たりがフェンスを越えず、二塁打になったことがあった。その際も本塁打と思ったのか、清宮が全力疾走しなかったことで「本来なら三塁まで行けたのに…。ホームランや長打を打ちたい気持ちは分かるが、それじゃあダメ」と一喝。さらに「プレーが雑になるのはチームにマイナス」とも指摘した。

 渡辺はあえて清宮の“お目付け役”を買って出ている。「近くで見ていて、もったいない。もともと判断能力がしっかりしているだけに、細かいことにも気を配れるようになれば、もっと良い選手になれる。そこに気づいてほしい。清宮がそういう選手になってくれればチームも隙がなくなる。残念ながら今のチームには僕以外に『ガツン』と言う人間がいません。僕は副キャプテンですし『嫌われ者』でいいんです」(渡辺)

 早実が全国制覇を果たすためには、清宮の大暴れが不可欠。渡辺は今後の戦いを見据え、さらに厳しいアドバイスを送った。「練習で特大の当たりを打ったとしてもその感触は忘れたほうがいい。西東京大会の好成績(打率5割、10打点)も忘れたほうがいい。打撃投手や地方大会の投手と、甲子園にやって来る投手は、レベルが1つも2つも違う。良い感触が残ってる方がアイツは危ないんです。理想の打撃ができなくて、空回りしなければいいなと…」。“鬼軍曹”の言葉を清宮も肝に銘じているに違いない。