第93回選抜高校野球大会(甲子園)第8日の27日、第2試合は劇的な幕切れだった。関東王者・東海大菅生(東京)が初出場の京都国際(京都)に5―4で逆転サヨナラ勝ち。2―4で迎えた9回裏、東海大菅生は1点差に詰め寄ると、なおも二死満塁の好機から代打・多井耶雲(やくも=2年)が右翼へ起死回生の一打を放った。


 元プロ監督の勘と選手の気合が勝った。局面は1ボール2ストライク、打者不利のカウントで絶体絶命――。一方で、1点差の二死満塁という状況に息をのむスタンド。その緊張感がヒシヒシと伝わる中で、公式戦初打席に立った背番号18は勇んでいた。「追い込まれていたけど、気持ちは負けていなかった。自分が決めるという気持ちでした」。相手捕手が構えた外角よりも、やや中に入ってきた133㌔の真っすぐを強振。打球は乾いた打球音を残して右翼線へスライドしながら落ちた。
 
 大会直前に登録変更でチャンスを掴んだ16歳。元中日の投手だった若林弘泰監督(54)は「とにかく気持ちが強い子。経験はないが、最後にメンバー入りした運にも期待した」と起用意図を明かしたが、まさに的中だった。

 予期せぬ指名を受け、バタバタで準備して、8強入りに導く大仕事をやってのけた身長173センチの細身の18番に駆け寄った仲間たちは「お前がヒーローや!」「執念がすげぇ!」と祝福と賛辞をこれでもかと贈った。「自分のお父さんが結構怖くて…小学校の頃から厳しく指導してもらっていたので…」と気持ちの強さを自己分析した多井。春制覇を狙う関東王者・東海大菅生の優勝ロードを明るくするシンデレラボーイが誕生した。