【韓国・機張発】「第29回WBSC U18ベースボールワールドカップ」高校日本代表は6日の韓国戦で延長10回タイブレークの末に4―5でサヨナラ負け。今大会初登板の先発佐々木朗希(大船渡=3年)は初回を無安打無失点も、右手中指のマメから流血し1イニングで緊急降板した。チーム内からは“令和の怪物”のメンタルを心配する声が上がり、この降板劇が進路にも影響するのではとの見方も出ている。

 大一番で、恐れていた事態が発生した。佐々木に異変が起こったのは初回。マメのできていた右手中指をしきりに気にするそぶりを見せ、捕手の水上(明石商=3年)がボールに付着した血痕に気づく。すぐベンチにサインを送り、相手の3番打者を左飛に打ち取った直後、永田監督がマウンドに駆け寄った。

 佐々木は「あと1人だけ行かせてください」と話すと、続く4番を空振り三振。2回からはDHを解除して西(創志学園=3年)がマウンドに立ち、日本中が待ち望んだ“令和の怪物”の大会初登板はわずか1イニング、19球で幕を閉じた。

 試合はその後、西が4イニングを5安打無失点と好リリーフ。計5投手をつぎ込むスクランブル態勢で相手の攻撃をしのいだが、タイブレークの延長10回に守備の乱れから失点、サヨナラ負けを喫した。

「痛みはあります。(出血は)気づいたらという感じ。自分がつくったピンチなので、初回だけは抑えたかった。(2度もマメができて)何でだろうという思いはあります。残念ですけど、チームが勝って優勝できることが一番。(登板は)少しだったんですけど、楽しかったです」と佐々木。その後は消え入るような声で「わからない」「覚えてないです」と繰り返した。

 佐々木の状態について、高野連の竹中事務局長は「マメが再発して、血が出ている状態。試合前の段階で違和感はあったと聞いている。本人からの申告はなかった。昨日ブルペンで何度も肩をつくった。そのときの球数が多かったようです。様子を見て1回で降板させた」と説明。今大会での登板は絶望的だという。

 永田監督は「先発は昨日伝えました。絶対に行けますということだった。(マウンドへ向かった場面は)なかなか自己主張しない子が、あと一人投げたいと言ってきましたんで。内々の話は言えない。いろんなことがいっぱいあります。預かっている身ですので、それも含めて私の責任。使った私が悪かった。以上です」と話し、再三にわたって「私の責任、以上です」と声高に質問をシャットアウトした。

 20人の代表メンバーの中でこれまで唯一出場のなかった佐々木がまさかの1回で降板したことで、チーム内では佐々木のメンタル面を心配する声も上がっている。この日3番手で1イニングを無失点に抑えた飯塚(習志野=3年)は「まだそんなに話せてないですが、本人がこの状況をどう思ってるのか。心配はしています。抜けたら大きいですし、これからどうしていこうだとか、帰って話し合いたい」と佐々木の身を案じる。

 ダブルエースのもう一人、奥川(星稜=3年)も「あの状態で抑えたんで、ドンマイドンマイ、全然悪くないよと声はかけました」と精神面のケアに心を砕く。

 さらに、今回の一件で今後についての考えが揺らぐのではとの見方まである。佐々木は今大会終了後にプロ志望届を提出するつもりでいたが、チームスタッフの一人は「4月の代表合宿の段階で、佐々木が奥川らプロ志望の選手たちにコンプレックスを抱いていたのは確か。甲子園にも出場できず、力試しのつもりで臨んだ今大会もこの結果では、自信を喪失してもおかしくない」と危惧する。

 岩手大会決勝の登板回避問題に続き、想像以上の波紋が広がっている代表での1イニング降板劇。最速163キロを誇る“令和の怪物”の心に、大きなトラウマが残らないといいが…。