第101回全国高校野球選手権大会(甲子園)は20日、準決勝2試合が行われ、履正社(大阪)が明石商(兵庫)を7―1で下して初の決勝進出を決めた。今や全国屈指の強豪校となったが、岡田龍生監督(58)就任時は部員11人の弱小チームから始まった。32年を経ても普段から裏方に徹する姿を見てきた選手たちは全国制覇で恩師を男にしようと燃えている。

 強力打線が好投手を攻略し、日本一に王手をかけた。初回、最速151キロを誇る相手の2年生エース・中森から池田、内倉、西川の適時打で一気に4得点。鮮やかな先制攻撃で主導権を握ると、投げては背番号17の2年生右腕・岩崎が1失点10奪三振の完投で、地元兵庫代表で大声援を受けた「公立の星」を難なく退け、近畿対決を制した。

 朝から降った雨の影響で開始が1時間遅れた。聖地の強い味方「阪神園芸」が土を入れ、グラウンドの水たまりは次々に消えていき、その光景にスタンドからは拍手が湧き起こった。ネット上では“安定の仕事ぶり”に称賛が並んだ。

 フィールドで球児たちが輝けるのは、陰ながら舞台を整える裏方さんたちあってこそ――。ナインにとっては“履正社野球部の原点”を思い出させる光景でもあった。チームを率いる岡田監督は選手たちにリスペクトを込めて「裏方監督」と呼ばれている。ある選手は「あれだけ有名な監督さんが裏方に徹してくれるのは本当に頭が下がるばかりです」と言う。

 トリプルスリーを3度達成した山田哲人(ヤクルト)を筆頭にT―岡田(オリックス)、安田尚憲(ロッテ)らをプロに送り込んだ名伯楽は野球の指導ばかりでなく、選手の練習環境を整えるグラウンド整備にも全力を注いでいる。ナインが指揮官の日常を明かす。

「整備用具の『ガリ(レーキ)』の使い方や、土をきれいにならすためのコツを熱心に丁寧に教えてくれるんです」「水たまりがあると率先して土を入れて、あっという間に整備してくれる」「外野にある林の木が生い茂ると、その都度手入れをしている」「(整備)技術を伝えるために選手とやる時もあるが、基本的に一人で黙々と環境整備をやっている」

 選手や指導に当たるコーチ陣が練習だけに集中できるよう裏方業務に徹する。まさに“1人履正社園芸”。組織の長が部下のために“汚れ仕事”を率先して行う光景が、履正社グラウンドには毎日広がっている。そこから生まれる人望と信頼、感謝の思いが強豪の原点だ。

 試合後、岡田監督は「ここまで来るのに32年かかった。卒業生たちには感謝したい」としみじみ語った。監督就任時のメンバーは野球経験の乏しい11人。当時、グラウンドはサッカー部などと併用で時間制交代だった。用具は揃わず、照明なども不備。そこから部員80人を超える名門になっても初心を忘れず、おごらない姿勢が求心力を高めている。ナインは「監督さんは『俺はこれまで泣いたことなんてない』とおっしゃっていた。『男泣き』させます」と、この夏の恩返しを誓っている。悲願の全国制覇まであと1勝だ。