【赤坂英一 赤ペン!!】これは木製バット復活のきっかけになるのか。高校野球選手権大会2回戦、智弁和歌山に1―7で敗れた明徳義塾・馬淵監督がこう嘆いている。

「負けて悔しいから言うわけじゃないけど、木のバットでやったらウチが一番強いんです。最近はとにかくパワー、パワーで、走者をためて大きいのをボコン!でしょう。野球とは本来、そういうスポーツじゃないんだ」

 さらに、「バントや足を使い、お互いに知恵を絞って、1点多く取ったほうが勝つ。それが高校野球でしょう」と強調。馬淵監督は1992年夏、星稜・松井(巨人、ヤンキース)の“5打席連続敬遠”で物議を醸した人物だが、今回の「木製バット復活論」には一理あると私は思う。

 馬淵監督が怒りをぶつけた智弁和歌山戦、明徳義塾の先発投手・新地は6回まで無失点だった。が、7回から球威が落ち、内角球を延々とファウルでカットされ、苦し紛れの外角球を痛打された。揚げ句、2者連続本塁打を含む1イニング3本塁打(ともに大会タイ記録)などで一挙7失点の大敗。もしバットが金属でなく木だったら、ファウルで粘ろうとして凡打になる可能性が高まる。バットを折る選手もいただろう。そもそも、いま問題となっている投手の投球過多も、芯でなくてもヒットが打てて、かすればファウルになる金属バットの弊害が大きい。

 実際、一部高校関係者の間では「投手の球数を減らすには金属バットの反発力を抑えるべき」と指摘する声もある。経費節減や木材資源確保などの理由から、74年に金属バットが導入されて45年、そろそろ金属バット一辺倒の現状を再考するべき時期ではないか。82、83年春夏に甲子園出場した池田のエース、巨人・水野投手コーチも最近、こう言っていた。

「ぼくは一貫して、この際、木のバットに戻せばいいと言ってるんです。木なら長打が出にくいし、ファウルで粘るのも難しい。そのぶん、投手は大胆な投球ができるようになるはずだから」

 そう語る水野コーチ、かつては四国大会や甲子園などで明徳(当時は松田、竹内監督)と覇を競っていた。「あそこはもともと強いんだ。地元の高知以外から選手をいっぱい獲ってるから」という。そんな昔のライバルがいま、木製バット復活論で意見の一致を見ているわけだ。これも何かの因縁だろうか。

 ☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。毎週金曜朝8時、TBSラジオ「森本毅郎スタンバイ!」出演中。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」(講談社)などノンフィクション増補改訂版が電子書籍で発売中。「失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。ほかに「すごい!広島カープ」(PHP文庫)など。最新刊は構成を務めた達川光男氏の著書「広島力」(講談社)。日本文藝家協会会員。