【越智正典「ネット裏」】4月4日、注目の創価大・田中正義が、東京新大学(創価、流通経済、東京国際、杏林、共栄、高千穂大)春の開幕をむかえる。157キロ。50イニング連続無失点。3月はじめ右肩の張りで侍ジャパンの強化試合を辞退したが、創大監督岸雅司はリーグ戦を勝ち抜き、6月の全日本大学にも進み大学日本一をめざしている。

 当然、先発。試合開始は10時30分。大宮公園球場。改称前の埼玉県営球場。1953年8月1日、甲子園めざしていた佐倉一高の長嶋茂雄が南関東予選の熊谷高戦の6回、バックスクリーンにホームランを打ち込んだ球場である。往時、一塁側内野席の上の土堤に茶店。春はおでん、夏は氷の旗がゆれていて、たのしかった…。

 当日、勿論、12球団のスカウトが集まる。昨年、田中が3年生だったので、「ああ、ことしのドラフトは“不作”だッ」。ジョークを飛ばしていた楽天の副会長補佐の早川実もスタンドに陣取るだろう。

 創大とぶつかる監督荻本有一の杏林大は不思議なチームである。スポーツ推薦入学枠がない。屋内練習場がない。合宿所もない。それでいてちゃんと一部にいる。監督古葉竹識の東京国際大(今季から元広島の山中潔が監督)がギューギューの目にあわされている。杏林大は4月1日から三鷹市の杏林大病院の隣りに全学部が集まるが、このときのエース亀谷拓朗は、練馬区大泉学園町の家から八王子に通い、部活を続けていた。マネジャーだった八木沢宗久は優良機械部品メーカーの第一線で頑張っている。

 杏林大のすべては監督荻本の人柄に始まっている。彼は東京新のチームが全日本大学や神宮大会に出場すると、必ず神宮球場に応援に来ている。大学野球連盟監督会の常任理事に推されるわけだ。

 優勝回数ゼロだが父兄は安心して子弟を預けている。名門広陵高から総合政策学部に入学入部した佐藤広康も立派な社会人になっているが「4年間に“ありがとう”を学びました」。そういえば、荻本は母の日に試合を見に来た選手のおかあさんにカーネーションを一輪ずつ贈っている。

 荻本は49年大分県臼杵の名家に生まれ、監督小嶋仁八郎(中央大)の津久見高、日大。小嶋は津久見の廻船問屋の御曹司。闘志満々。ふるさと野球で春夏計14回甲子園へ。荻本は67年センバツ優勝のときの俊英球児。津久見は72年夏にも全国優勝。

 杏林の対田中正義はこれまで2安打、1安打、ノーヒットノーラン。2月21日、荻本は選手を連れて佐伯にキャンプイン。父母の負担を少なく…と、旧友に1泊2食4500円の宿を頼んだ。朝7時から打ち込み。心やさしい男だがここというときに勇戦監督になる。対田中のポイントは斬り込みのトップバッターであろう。荻本は3月4日に帰京してから毎朝、ひとりで八王子グラウンドにトンボをかけている。 =敬称略=(スポーツジャーナリスト)