1985年、伝説の阪神日本一に貢献したこわもてのV戦士が“女の世界”で奮闘している。侍ジャパン女子代表のヘッドコーチに就任した阪神の木戸克彦球団本部部長(57)だ。6連覇がかかる「第8回WBSC女子野球ワールドカップ」は8月に米国・フロリダ州で開催。代表初の女性監督となった橘田恵監督(35)の“名参謀”として期待されているが、どんな思いで決戦を迎えるのか。熱い意気込みを聞いた。

 ――久しぶりのユニホーム姿、決まってますね

 木戸ヘッド:まあ、ピシッとした気持ちにはなってる。

 ――就任の経緯は

 木戸:もともと橘田監督とは履正社の関係者を通じて顔見知りやった。女子野球どうですか、と言われ、グラウンドに見に行っているうちにそんな話がきた。女子選手らの礼儀、グラウンド整備する姿を見てて自分がPLにいたころを思い出してな。何とかしてやりたいと思ったのは確か。ずっと野球に携わり、会社で仕事ももらっている。野球に対する恩返しの気持ちで引き受けた。

 ――それにしても女子野球でコーチとは、失礼ながら意外…

 木戸:大事なことやで。女子の硬式野球もどんどん学校数が増えている。今の選手らが結婚して子供相手にキャッチボールやノックができる母親を一人でも増やさんと。それは男子の野球にもかえってくるし、今は野球ができない公園が多いけど、国ができるようにしてくれるかもしれんやろ。それと久しぶりにユニホームを、という思いもあった。オレはPL、法政、阪神とぜいたくと言うか、恵まれた環境でやらせてもらった。PLで全国優勝してから今年で丸40年。母校の野球部はなくなったけど、高校、大学もジャパンのユニホームを着た。これも何かの縁だと思って手助けできればと思ってる。

 ――木戸さんは鉄拳…いや、猛練習してきた世代。女子への指導は気を使いませんか

 木戸:女、と意識するのはダメ。世界一を目指しているスポーツとして見たら、男も女もない。でも、乗せ方は男とは違う。心を開いて話をするということ。「お前ならできるはずや」とか「前できたじゃないか」とかは必要。今の野球は男の方もそうなってるけどな(笑い)。指導は前向きに表現する。野球は楽しいよ、と。まだまだ技術的に足らない選手は多いから、こんなことを考えたり、こんなことをやれば、もっと試合で楽になるよと。もちろん、男言葉も出てくるよ。ボーッとすれば、大ケガをするスポーツなんやから。

 ――コミュニケーションも取れている

 木戸:選手と話すときは全員呼び捨てと決めている。「何々ちゃん」とか下の名前で呼ぶのは難しい。オレも娘はいるけど、今回年齢が自分の3分の1のもいる。

 ――やはり大変…

 木戸:流行の言葉を聞いたりもしてる。“マジ卍(まんじ)”とか(笑い)。普通、すみません、間違いました、というところを「すいません、ウソです」とか言うたり、今の子は…やけど面白いと思ってるよ。

 ――女性監督の下でやるのも初めてだ

 木戸:女性に使われるのも面白い。今回、監督に野球を教える部分も出てくるやろうけど、何を聞かれてもいいようにいつも準備しておく。監督が聞いてきやすいようにしている。どこの会社でもある年下の上司という感じかな。それも自分は勉強になってる。

 ――6連覇がかかるW杯。改めて抱負は

 木戸:この年でまたユニホームを着る機会を与えてもらった。阪神の坂井オーナー、揚塩球団社長ら球団の方にも感謝している。責任感もやりがいもある。今は大きな目標を持つ、大変な監督に仕えるという気持ちしかない。野球歴はオレの方が長いのでアドバイスで助けることはあると思うが、逆に短期決戦で一発勝負の戦術とかはオレよりよく知っていることもある。女の監督で負けた、とか言われるのも、しゃくだ。オレは日本一には何度かなったが、世界一はない。ないからそれはしたい。

◇公式戦に出場の快挙=木戸ヘッドと“初コンビ”を組むのが代表初の女性監督となった橘田恵監督だ。阪神のドラフト1位・馬場らプロ野球選手も輩出する仙台大の硬式野球部出身で公式戦は1試合に出場。わずか2打席だったが、出ること自体が“快挙”だった。現在は履正社高(大阪)の女子硬式野球部監督を務め、2017年春の全国高校女子硬式野球選抜大会で全国制覇。代表監督として初采配となった同年アジアカップでも5戦全勝で優勝した。

 そんな橘田監督は木戸ヘッドについて「よく(年齢が離れて)年代的に大丈夫とか聞かれるけどどこが、って感じです。選手だけでなくスタッフにも一番気を使っていただいている。やさしいし、温かい。私は(木戸ヘッドの指導が)男性と女性は別という解釈でいます(笑い)。野球の経験値は一番高い方。私らが気づかない投手の癖だとか、細かい点まで、アドバイスは大切にしていきたい」と感謝。22歳も年齢の差はあるが、木戸ヘッドの“超高速関西弁”にも動じることなく息の合ったところを見せている。

 6連覇を目指すW杯。「重圧を感じるのは選手も同じ。私は選手に『楽しめ』と言ってる分、自分も楽しめるかを大事にしていきたい。短期決戦で外国人の長打力には勝てない。いかに走者を出して塁を進めていくか、バントとかいろんなところを見せることで相手にプレッシャーをかけていきたい」と橘田監督。その手腕にも注目だ。

☆きど・かつひこ=1961年2月1日生まれ、大阪府出身。78年、PL学園3年夏に全国制覇。法政大に進学し、東京六大学リーグでも活躍。82年のドラフト会議で阪神に1位指名され、入団した。85年には正捕手として阪神21年ぶりのリーグ優勝、初の日本一に貢献。96年に現役引退。通算成績は965試合出場、505安打、打率2割3分、51本塁打、226打点。引退後はバッテリーコーチ、二軍監督、ヘッドコーチを歴任し、現在は球団本部部長(プロスカウト担当)。昨年ブレークした桑原謙太朗投手をオリックスからトレード獲得するなどフロントとしても手腕を発揮している。