星野さんとは楽天監督就任1年目の2011年に取材にあたった。最初に見せられたのは、その強いリーダーシップだった。就任早々に東日本大震災が発生。発生当時、遠征中だったチームは大混乱した。いきなり指揮官としての資質が問われる事態となったが、星野さんは「とにかく家族を全員、仙台から避難させて選手の不安を取り除くことが大事だ」とすぐに球団に指示。バスを用意させ、新潟を経由して空路で首都圏に移動させる手はずを整えた。指示は明確だったが球団が対応できなかったことで、選手間から星野さんへの誤解が生じ、一時は首脳陣とナインが対立しかけた。しかし、これに気づいた星野さんは動じることなく、まずはフロントを一喝。指示系統を整える一方で、ナインとのコミュニケーションをこれまで以上に取るようになった。空中分解寸前だったチームをまとめ上げ、4月18日の本拠地開幕戦に勝利。ベンチ前でナイン一人ひとりと力強くハイタッチした姿は今でも忘れられない。

 あと、星野さんで思い出すのが記者を集めて開いてくれた「お茶会」だ。試合前など、チーム宿舎内の食事会場付近でたむろしていると食事を終えた星野さんがゆっくりと登場。「なんや、お前ら」といった表情から「しゃあないなあ」と笑みに変わり喫茶室へ向かうのが“定番”だった。話題も政治経済から芸能、下ネタまでざっくばらん。ここまで記者と向き合ってくれる監督もいないと思う。

 そして、監督就任3年目に、球団初のリーグ優勝。さらに宿敵・巨人を倒しての日本一。日本シリーズ第7戦では、前日に160球を投げた田中を最終回のマウンドに送り日本中の感動を呼んだ。だがこれは、物議も醸した采配でもあった。

 星野さんも気にかけていたのか、昨年11月28日に東京で行われた「野球殿堂入りを祝う会」では、当時のコーチと田中を脇に立たせ“公開説教”。「オレはベンチから外すつもりでいたら、コーチが『投げるつもりです』と。そしたらこの間、テレビで(田中が)『投げるつもりはなかった』と…。この3人にだまされた」とボヤきながらも満面の笑みで当時を懐かしんでいた。これが私の見た最後の姿だった。まだ信じられない。(2011年楽天担当 佐藤浩一)