【気になるアノ人を追跡調査!野球探偵の備忘録(54)】「監督さん、僕の自転車は電動です」。こんなツイートが、今秋世間をにぎわせた。ツイートの主は筑波大・大場遼太郎投手。今秋ドラフトでは最速150キロ右腕として注目を集めながらも、プロ志望届提出を見送った“電動自転車男”が、ツイッター騒動の顚末と今後にかける熱い思いを激白した。

「びっくりしましたよ。2~3日で6・3万いいね、リツイートも4万とかいっちゃって。ある意味、それだけ応援してもらってるんだなと実感した出来事でしたね」

 新聞のドラフト特集で筑波大・川村監督が大場を評し「自転車通学で足腰が強くなった。とにかく気持ちが強く、エースとして成長してくれた」というコメントを寄せた記事の画像とともに、冒頭の文言を載せた大場のツイートは瞬く間に拡散、転載され、ドラフト候補から一躍有名人となってしまった。投稿直後から大場のスマホは通知が鳴りやまず、リプライ欄には「投手だけにバッテリーはつきものっつって」「ちょww大場選手のストレート手元で伸びすぎwww」などと、大喜利大会さながらの盛り上がりとなった。

 実際、大場の自宅から野球部のグラウンドまでは7~8キロの平坦な道のり。自転車で約20分ほどの距離だというが「自分いつも時間ギリギリなんで、全力ではこいでましたよ。一応汗かくぐらいにはこいでました。まあ、電動(アシスト付き)なんですごい楽なんですけど(笑い)」と頭をかく。

 とはいえ「『言わんほうがよかったんちゃう?』というリプライもあったけど、特に後悔はしてません。今は騒ぎも落ち着いて、練習に集中できています」と、思わぬ騒動も特に影響があったわけではないという。

 一躍時の人となった大場だが、うれしい半面で反骨心もある。小学生のときに弟が交通事故で大けがを負い、一家でリハビリ施設のある鳥取に転居。リハビリのかいあって現在は日常生活に支障がないまでに回復したものの、弟は大好きだった野球をあきらめざるを得なくなったという。

「男3人の4人きょうだいで、けがをした下の弟が一番野球センスがあったんです。弟のことで大変な時期も、家族は自分の練習につきあってくれて。自分は長男。弟のためにも家族のためにも、プロですぐクビになるわけにはいかないんです」

 悩んだ末、大学でのプロ志望届提出を見送り、社会人野球を経て2年後のプロ入りを決意した。

「この自転車も、大学1年の誕生日プレゼントで買ってもらったものなんです。8万5000円もするんですよ。どんな形でもいいので、家族に何か恩返しがしたい。今回は自転車で注目されましたけど、自転車だけじゃなく、実力で注目される選手になりたい。2年後、プロでも活躍できるくらいの投手になって、もう一度注目してもらうのが今の目標です」

 世間をにぎわせた“電動自転車男”は、家族への熱い思いを胸に、プロの舞台へ向かってこぎだした。

 ☆おおば・りょうたろう 1996年3月19日生まれ、大阪府大阪市出身。小学校3年のとき軟式野球チーム「平野リトルトロージャンズ」で野球を始める。4年には硬式野球チーム「八尾フレンド」に所属。6年のとき鳥取に引っ越し、東郷小野球部でプレー。中学では地元大阪に戻り「羽曳野ボーイズ」で3年時に全国大会出場。日大三高進学後、1年夏にチームが全国制覇。1年秋からベンチ入りし、自身は2年夏、3年夏と2度甲子園に出場。筑波大では1年春から先発として活躍。最速150キロ右腕として今秋ドラフトでも注目を集めたが、プロ志望届提出を見送り、来年から社会人野球のJX―ENEOSでプレーを続ける。170センチ、77キロ。右投げ右打ち。