巨人のラッキーボーイがまたも大仕事だ。6―3で逆転勝ちを収めた25日の阪神戦(東京ドーム)で、高橋由伸監督(42)は2年目の宇佐見真吾捕手(24)をプロ初のスタメン起用。これがズバリとはまり、若武者は劣勢の5回、打線に火を付ける値千金の2号同点2ランを放った。宇佐見株の急上昇で小林誠司捕手(28)との正妻争いも本格化。ヤングGの活躍は、CS進出を目指すチームに勢いを生んでいる。

 打った瞬間、本塁打と分かる強烈な一発だった。右翼の糸井は、ぼうぜんと打球を見送るだけ。G党の歓声が爆発するなか、打球は右翼スタンド上段にドカンと突き刺さった。

 2点を追う5回無死一塁だった。カウント3ボール1ストライクから、阪神先発の変則右腕、青柳の140キロシュートを一閃した。18日のサヨナラプロ1号以来の一発は、またも貴重な同点弾となった。若武者の一発で目が覚めた打線は、この回に打者一巡の猛攻を浴びせ、一挙5点を奪って逆転に成功。6回に代打で安打を放った小林が7回からマスクをかぶり、リリーフ陣を好リードして逃げ切った。

「(初スタメンは)すごい緊張しましたけど、阿部さんや相川さんから『ずっと緊張しとけ』と言われて。その中でずっとできて良かったです」とお立ち台ではにかむ宇佐見に、決勝打の師匠・阿部は「小林を抜くつもりで頑張ってもらいたい」とエール。チームに活力を生む後継争いを期待した。

 ベテランが居並ぶ巨人において、若さ際立つ宇佐見の存在は、ライバルの小林だけでなくベンチ全体を活気付けている。ただ、この時期に宇佐見が一軍にいられるのも、ルーキーイヤーの“英断”があったからだった。

 宇佐見はプロ入り前の城西国際大4年時に球が顔面を直撃するアクシデントに遭い、外傷性の白内障を発症していた。将来性を高く評価していた巨人のスカウト陣は「治る」と判断して指名に踏み切ったが、入団後も左目の視野の一部が狭窄(きょうさく)。二軍では41試合(捕手で36試合)に出場したが、視力の影響もあって6捕逸を記録し、打率も1割9分8厘に低迷した。

 完治には手術が必須。時期はオフを予定していた。だが宇佐見の才能にほれ込んだ二軍首脳陣がフロントに掛け合い、手術の前倒しを懇願したのだという。「オフに手術したのでは秋季キャンプに間に合わない。このまま無理して試合に出しても見栄えの悪い数字ばかり残るし、一軍首脳陣の目に触れる機会がなければ、大卒の宇佐見はチャンスがないまま見切られてしまうかもしれない。そういう声がコーチの中から上がって、6月に手術する運びになったのです」(チームスタッフ)

 手術は無事成功。そしてお呼びがかかった秋季キャンプで、打撃と強肩が由伸監督ら一軍首脳陣の目に留まり、小林のライバル候補に名乗りを上げた。開幕直後に右手を骨折し長期離脱する不運はあったが、オフに手術していれば現在の立場はなかっただろう。

「ここ数試合、マスクも落ち着いてかぶっていたし、どこかで(先発起用を)と思っていた。期待に応えてくれた」と由伸監督も絶賛の宇佐見。待ち望んだラッキーボーイの出現が、巨人を逆転CS進出へ導くか。