第99回全国高校野球選手権西東京大会は28日、神宮球場で準決勝が行われ、早実が4―1で八王子学園八王子を下し、決勝に進出した。怪物スラッガー・清宮幸太郎内野手(3年)は7回に歴代1位タイとなる高校通算107号アーチを放つなど3打数1安打1打点と活躍。ついに史上最多記録に並んだが、ここまでには人知れぬ3つの苦難があった。

  ついに並んだ。2012年夏までに兵庫・神港学園の山本大貴が記録した歴代1位の高校通算107本塁打に清宮が到達した。7回、先頭打者で迎えた第4打席。2球続けてボールの後、アウトコースに入ったチェンジアップを弾丸ライナーで左中間スタンド中段に叩き込んだ。

  1年前の光景がフラッシュバックした。昨夏の西東京大会準々決勝、八王子学園八王子戦。3点を追う9回一死一、三塁、この日と同じ米原から放った同点弾かという打球は、フェンス直前で強い逆風に押し戻され、ライトのグラブに収まった。「あそこから、あの打席からこの1年は始まった。八王子にも、米原くんにも、絶対やり返してやるという思いが強かった。その思いがあの一打に凝縮されていたのかな」と清宮は話す。1万7000人が見守るなか、因縁の相手にリベンジを果たした。

  史上最多に並んだ高校通算本塁打。ここまで決して平坦な道のりではなかった。2年前の甲子園では1年生ながら4強入りに貢献したが、3回戦の東海大甲府戦で左手親指を骨折していたことがその年の暮れに父・克幸氏によって明かされた。骨折後、甲子園も含めて本塁打を量産し、1年のシーズンが終わるまでに22本のアーチを描いた。

  中堅へのコンバートを経験した2年春には連戦の疲れから右肩痛を発症。それでも耐えた。ゴールデンウイーク期間の練習試合では高校3年間で唯一の欠場もあったが、それ以外は全国各地から強豪が訪れる早実の練習試合に清宮が出場しないわけにはいかないという事情もあり、DHでの出場が続いた。

  右肩痛は打撃にも影響を及ぼし、秋田、宮崎と招待試合でも快音は響かず、苦しみながらも「気の持ちようを直した」と2年夏の大会前には通算50号に到達。守備位置も一塁に戻し、この日リベンジを果たした八王子に敗れるまで、本塁打を積み重ねた。   センバツに出場した今春には深刻な打撃不振に悩まされた。甲子園では2試合で3安打0打点。節目の80号まであと1としながら、その後も1か月以上、本塁打が出ない日が続いたが、自力で修正した。「いいときの映像と見比べて、原因がわかった。いろいろあって言いたくないんですけど…下半身です。これだけホームランが出なかったのは初めてですけど、これもひとつの経験。いい引き出しが増えた」。スランプを脱出し、再び本塁打量産モードに入り、この日の107号となった。

  記録について清宮は「まだ並んだだけなんで。次打ったら、自分のなかでも超えたな、というのはある」という。「でも、それよりチームとして拮抗したなかで打てたというのが大きい。たくさん来ていただいているお客さんには、ホームランを期待していただいてるけど、自分が見てほしいのはチームを鼓舞する、チームのために声を出す姿。その思いだけでやってるので」と主将らしく話した。

  東海大菅生との西東京大会決勝は30日。3つの苦難を乗り越え、3年間で技術だけでなく、人間的にも大きく成長した清宮が甲子園切符をつかみにいく。