第99回全国高校野球選手権西東京大会は21日、神宮球場で5回戦が行われ、怪物スラッガー清宮幸太郎内野手(3年)を擁する早実は5―0で法政に快勝。8強入りを決めた。清宮は「3番・一塁」で先発出場。高校通算106号となるソロ本塁打を含む3安打3打点で勝利に貢献した。高校通算本塁打歴代1位の神港学園・山本大貴の107本まで、あと1本。その数字の価値は一体どれほどのものなのか。徹底検証した。

 100本以上を誇る本塁打のなかでも、この日の一打は不気味さすら感じさせる一発だった。先頭打者で迎えた3回第2打席、外角高め94キロのシンカーを捉えると、打球は高い角度で上がった。外野フライかと思われた打球は風に乗り、足を止めた中堅手の後方、やや右寄りのスタンド前列にポトリ。集まった5000人の観客からは、歓声というよりどよめきに近い声が広がった。

「芯だったんですけど、こすっちゃってどうかなと。センターの足取りが止まってたんで『あーあ』と思ったんですが。入ったのでよかった」と清宮。「どこに飛んでも入る。そういう意味では成長したのかな」と驚がくの一発を振り返った。公式戦8戦連発という驚異の量産ペースで歴代1位の107本にあと1本に迫ったが、果たして清宮の通算本塁打数にはどれほどの価値があるのか。

 高校通算本塁打は練習試合や狭い地方グラウンドでの記録も含む上、試合数、打席数という“分母”が学校によって大きく異なり、単純な比較が難しい。清宮が入学後出場した試合は公式戦全50試合、練習試合133試合の計183試合。およそ1・7試合に1本のペースで本塁打が出た計算になる。

 1年時は54試合22本で2・5試合に1本だったのが、2年では84試合56本で1・5試合に1本と急成長。3年春以降は1か月以上本塁打が出ない不調もあり、45試合28本で1・6試合に1本とややペースは落ち着いたが、その成長は本物だ。勝負を避けられる場面が多く、必然的に打数が下がる公式戦でも全50試合で26本塁打しており、1・9試合に1本の確率だ。

 早実の練習試合数は決して多いわけではない。清宮入学後3年間の練習試合133試合のうち、1年時は35試合、2年時は66試合、3年春からは32試合をそれぞれこなした。2年時は3月の練習試合解禁日から11月の禁止期間までのフルシーズンに加え、夏の西東京大会途中で敗退したためやや試合数は多いが、年間平均44試合は一般的な都立高の年間80~100試合と比較しても極端に少ない。強豪校では、今春センバツを制した大阪桐蔭は土曜授業のため、年間約50試合と少ない。

 しかし、春夏通算13回の甲子園出場を誇る関東第一は年間約120試合と、100試合以上が一般的。

 招待試合や注目校ゆえの報道量が多く“見かけ”の数字こそ大きいが、年間平均50試合未満の早実はかなり少ない部類と言える。

 もちろん、球場の大きさや対戦校のレベルも本塁打数に影響する。高校通算本塁打上位に名前を連ねる選手の多い神港学園は中堅105メートル、左翼100メートル、右翼90メートルの変形グラウンドに加え「土日は基本ダブルヘッダー。トリプルヘッダーをこなす日もあった。平日でも授業のあとに練習試合を組んだり、試合数は多かった」(歴代1位の山本大貴)、「記録に近づくと無理やり弱い相手と組んだりしてる節もあった」(同4位の伊藤諒介)というが、早実が主戦場とする王貞治記念グラウンドは両翼93メートル、中堅120メートル。神宮球場の両翼97・5メートル、中堅120メートルと比較しても遜色なく、一般的な高校が持つグラウンドとしてはかなり大きい。早実に多い招待試合は一般に各県の春季大会ベスト4以上が参加しており、いずれも地方の強豪校ばかり。甲子園出場レベルの高校との対戦で本塁打を量産しているというわけだ。

「春の関東大会が終わってから少し調子を崩した。でも、公式戦では打ってますし、波がありながらも試合には合ってるのかな。(8試合連発は)たぶん初めて」と話した清宮。知れば知るほど、恐るべき存在というほかない。