今春から女子マネジャーの甲子園練習が解禁になるなど、近年女性の台頭がめざましい高校野球で、東北初となる女性監督が誕生した。宮城県涌谷高校で今春から指揮を執る阿部奈央監督(25)は練習ではシートノックを打ち、試合では男性監督同様に采配を振る。ひぐちアサの人気漫画「おおきく振りかぶって」さながらの“リアルモモカン”の素顔に迫った。

 ――野球を始めたきっかけは?

 阿部:中学校ではソフトボールをやっていたんですが、入った高校にソフトボール部がなくて。父が高校野球の監督をしているので、ずっと野球が身近にあった。ソフトのある学校も考えていたんですが、教員になりたいという夢もあって、野球部に入ることに決めたんです。

 ――男子に交じってのプレーには戸惑いもあった

 阿部:入部しますと言った瞬間から、たくさん迷惑はかけたと思う。一度は断られたんですが、しつこく言って認めてもらいました。先輩、後輩、仲間には本当に恵まれた。女子と一緒にやるのが嫌に思う選手もいたと思うけど、それを態度に出されることは一度もありませんでした。

 ――監督になった経緯は

 阿部:去年赴任して部長を任されたんですが、前監督が異動になって、繰り上げで私が監督になった。今の部長先生も指導者として実績があるので、部長先生が教えたほうが選手たちのためにはなるかもしれないけど、初任地でずっと私が見てきた子たち。最後までしっかり見たいというのもあって、私がやることになったんです。

 ――指導上のモットーは

 阿部:一番は彼らの話をしっかり受容して、尊重すること。やらされるのではなく、自主性を持たせることですね。最近来客があったときに、選手自らお茶を持ってきたり、気を使えるようになってきた。プレーよりも、そういう部分の成長がうれしいです。

 ――女性監督ならではの苦労は

 阿部:やっぱり技術面に関しては、女性にとやかく言われても聞く耳を持たない。選手たちにもプライドがありますから。嫌な気持ちで野球をやらせるより、気持ちよくやってほしいというのが私の考えなので、技術的なことはあまり私からは言わないようにしてます。選手にとってみれば、女性が監督というのは不安でしかないと思うんです。実際に彼らもそれは少なからず感じてたみたいで、逆に「自分たちがしっかりしなきゃ」と思ってくれた。年齢が近いから話しやすいのか、采配やポジションについて意見してくることもあるんです。でも、そうやって自主的に主張してくるのは去年まではなかったこと。私の場合は、そういう意見も取り入れて、一緒に成長していけたらと思います。

 ――同じ高校野球の指導者として現在、石巻北野球部監督である父親の輝昭さん(57)も喜んでいるのでは

 阿部:父は厳しい人で、私も頑固。今は同じ家に住んでいますが、事務的な会話だけで野球の話はあまりしません。私が子供のころも監督業でほとんど家にいませんでしたし。ただ、ノックの打ち方に関しては「飛ばそうと思って飛ぶもんじゃない。ちゃんと上から叩いてバックスピンをかけるんだ」と言われたことがあって。それは記憶に残っています。

 ――今後の目標は

 阿部:監督になってからまだ公式戦では一度も勝てていないので、まずは夏1勝です。今の3年生が引退すると部員が5人になって、秋は連合チームでの出場がほぼ確実。そういう意味でもこのチームでやれるのは今年限りなので、少しでも長く彼らとプレーできるように。

 ――県内の高校同士、父親との対戦も楽しみだ

 阿部:実は練習試合はすでに組んだんですが、父のところも部員が2人しかいなくて、連合チームでした(笑い)。今秋からは父子で連合チーム? いえいえ、あっちはあっち。別々でチームを組んで負かしてやります!

◆「モモカン」とは=人気漫画でアニメ化もされた「おおきく振りかぶって」(作・ひぐちアサ)に登場する西浦高校野球部の女性監督・百枝(ももえ)まりあの愛称。指導力、統率力に定評があり、主人公の三橋廉ら選手たちをグイグイ引っ張っている。そんな「モモカン」から現実の世界の高校野球女性監督は一部で「リアルモモカン」と言われる。

【少ない女性指導者】全国的に見ても高校野球の女性指導者は例が少ない。2016年夏の西東京大会では東京電機大高の市川麻紀子監督が就任6年目で初勝利。洛南(京都)の山村真那監督が京都府初の女性監督として采配を振った。08年には、長岡農(新潟)の井上麻子監督が夏県大会で2勝を挙げており、他に吉田島農林(神奈川)・伊沢里江監督、多古(千葉)・小原満里子監督などがいる。東北では今春、湖南(福島)にも女性監督が誕生したが、部員は9人に満たず、公式戦で采配を振る女性監督は阿部監督が史上初とみられる。

☆あべ・なお=1991年11月22日生まれ、宮城県石巻市出身。石巻中1年のとき、同校で部活でソフトボールを始める。石巻高では硬式野球部に所属、男子に交じってプレーし、2年からはマネジャーを兼任。東京女子体育大卒業後、2016年に涌谷高校に体育教師として赴任し、硬式野球部部長に就任。今春からは監督を務める。165センチ、右投げ右打ち。