異業種で輝く元プロ野球選手

【杉山晃紀(元巨人投手)】駅前に多種多様の飲食店が軒を連ねる東京・赤坂。その一角にある雑居ビル4階のダーツバーで球界を去った元G戦士が第2の人生を歩んでいる。プロソフトダーツ選手・杉山晃紀さん(26)である。2008年の育成ドラフト1位で巨人入り。入団直後は最速148キロの直球を武器に将来を見込まれていた。ところが、プロ2年目の10年11月に骨の内部に水がたまる「骨嚢腫(こつのうしゅ)」を腰部に患い手術。その後、懸命のリハビリを経て11年5月に復帰も、同年オフに戦力外通告を言い渡された。

 そんな杉山さんがダーツの道に進んだきっかけは現役時代からの趣味だった。

「もともとダーツが好きで、プロ2年目ぐらいから息抜きのために寮の近くのダーツバーに行くようになりました。最初は遊びでしたが、寮の自室に的をかけて遊ぶようになってから上達しまして。気付いたらかなりのレベルに達していた。ただ、時間があると自室でダーツを投げていたため、僕の下の階に住んでいた中井(大介)さん(顔写真)にはよく『コツコツうるさい』と怒られました。的に矢が当たる音が響いたみたいで。本当に申し訳なかったです(苦笑)」

“特訓”の成果もあり、引退から1年後の12年11月にはプロテストに一発合格。同年末にデビューを果たした。

 ただ、同じプロでもダーツ界と野球界では待遇差が歴然としている。今季から年間37試合で争うツアーでの1試合の優勝賞金は最高でも150万円。杉山さんが所属する「PERFECT」という団体には男子プロだけでも1000人以上がひしめき合う。トップ選手の中には年収1000万円を超えるつわものもいるが、そんな選手は一握り。大半は別の仕事を掛け持ちしながらの厳しい生活を強いられている。杉山さんも昨年のランキングは96位ながら、年間獲得賞金は20万円ほど。ダーツバーを経営する会社の社員として週5日、店内での接客業をこなしながらの戦いが続く。

 それでも表情は明るい。

「僕は競技が好きですし、ダーツは老若男女ができるスポーツ。野球と違ってフォームや投げ方に決まりはないですし、投げる感覚さえつかめば誰でもうまくなれる。実際、僕もそうやって腕を磨いた。やっていく自信はあります」

 当面の目標は、2月からほぼ毎週末に行われるツアー戦での1勝。そのうえで年間ランキング上位を目指す。

「大きい大会だと1試合で600人ぐらいのプロが出場するので、ツアーでの1勝は本当に難しい。今までの自分の最高順位もベスト16ですから。でも、今シーズンは何とか1勝はしたい」

 球界での挫折を胸に、ダーツ界で新たな夢を射止める。

 ☆すぎやま・あきのり 1990年、京都府生まれ。府立綾部高から2008年の育成ドラフト1位で巨人入団。一軍での公式戦出場がないまま11年に現役引退。12年11月にダーツ団体「JAPAN」のプロテスト合格。15年6月に「PERFECT」に移籍。現在はダーツバー「Loop+赤坂」を運営する株式会社ワーループの飲食事業部に所属しながらプロ活動中。16年の年間ランキング96位。右投げ両打ち。