【赤坂英一「赤ペン!!」】32年ぶり日本一を目指す広島には、勤続53年を誇るトレーナーがいる。1963年に入社し、勤めながら大学にも通ってトレーナー部長に就任。「75年の初優勝から今年の優勝まで7回の優勝を全部見とる」と言う福永富雄トレーナー部アドバイザーだ。今年74歳になり、日本プロ野球トレーナー協会会長も兼務している人物である。

「昔の選手はよう練習をした。根本(陸夫=故人)さんが監督しとったころ(68~72年)、エースの外木場(義郎)が『よしというまで投げとけ』と言われて、午前から投げ始めてさ、ぼくが昼飯を食べ終わってもまだ投げとる。何球投げたか聞いたら、『600ぐらいかな』って。今どきの選手はそんな投げ込みはやらんし、させられんもんな」

 では、近頃の選手はそれだけひ弱になったのかというと、まるで逆。むしろ、精神的には比べものにならないほどタフになっているそうだ。

「91年以前の優勝では、ペナントレースの大詰めまでくると、選手たちはみんな唇がカサカサになったもんです。大野(豊)も達川(光男)も顔色が悪うなって、肌が荒れてね。それだけプレッシャーがきつかったんじゃと思う。でも、今どきの選手はみんな肌がツヤツヤしとるよね。CSも表情が明るくて、みんな楽しんでやっとった」

 体力的にも昔の選手に引けを取らない。とくに菊池涼介の肩の強さたるや、「いままで見たセカンドの中でも間違いなく一番じゃな」という。

「二遊間を抜かれそうな打球をバーッと横っ跳びで捕って、そこから足を踏ん張らず、上半身だけを一塁方向へねじって、打者走者をアウトにするじゃろ。あんなプレーができる選手、菊池以前には見たことがないよ。足で踏ん張る必要がないということは、それだけ並外れて肩が強いんだな。吉田(義男=元阪神の名遊撃手)さんも、『自分が見た中で一番肩が強いのは菊池』とおっしゃってたぐらいだからね」

 カープは50年の球団創立から今年で67年目を迎えた。福永氏はそのうち半分以上に及ぶ53年間をトレーナーとして過ごし、いまもなお選手たちの体のケアを続けている。元主砲・監督の山本浩二氏からファームの若手まで、チーム内で長年定着している呼び名は「先生」。菊池はもちろんだが、こういう生き字引的存在もまた貴重な戦力と言えるだろう。