由伸巨人の1年目が幕を閉じた。1勝1敗のタイで迎えた10日のクライマックスシリーズ(CS)・ファーストステージ第3戦は、延長11回に及ぶ死闘の末、3―4で接戦を落とし、1勝2敗で敗退が決定した。高橋由伸監督(41)は「私の力がなかった」と潔く結果を受け入れたが、2年目となる来季は、いよいよV奪回が大命題。球団は早速バックアップ体制の再構築に乗り出すが、意外にもコーチ人事への影響は軽微なものとなりそうだ。その裏側に迫った――。

「お互い総力戦というなかで力一歩及ばなかった。選手は精一杯やってくれたと思うし、私の力のなさなのかなと思います」

 死力を尽くしての結果を、若い指揮官は素直に受け入れた。DeNAの青い歓喜の輪が解けると、由伸監督はまばらになったオレンジ色の右翼席へナインと駆けだし、残っていたファンへ帽子を取って深々と一礼した。

 監督就任1年目は、シーズン2位、CSファーストステージ敗退という結果に終わった。敗軍の将は「選手には結果が全てとずっと言ってきました。その結果に対して一生懸命戦ってくれたわけですから、責任を取るという問題ではないかもしれませんが、結果的に私の力がなかったということになるのかな」と兵を語ることはせず、結果を全て背負い込んだ。

 由伸監督にとっては序盤から誤算続きのシーズンだった。若手の台頭に期待し、積極的にチャンスを与えたが、結局は誰もレギュラー定着には至らず。

 球団は戦力不足を外国人で補う構想を描いていたが、フタを開ければローテの軸と期待したマイコラスが肩の不安で大きく出遅れ、4番候補のギャレットも、前半戦は大ブレーキ。攻守の要と期待したクルーズも故障離脱を繰り返し、しまいにはコーチ陣と衝突してCS直前で二軍へ降格となった。

 球場で終戦を見届けた老川オーナーは「選手はそれぞれ頑張ってくれたと思う」とねぎらいつつ、「来季もこのような結果では許されない。早速、次に向けて立て直してほしい」と球団内へ覇権奪回の大号令を発した。

 来季が2年目となる由伸監督の続投は揺るがない。ただ指揮官が安泰でも、巨人ではV逸となれば主要コーチ陣にメスが入り、大胆な内閣改造が行われるのが恒例。それでも今回に関しては、異例の“さざなみ人事”となる模様だ。

 チーフ格の異動は、首脳陣最年長だった内田順三打撃コーチ(69)が本来の持ち場であるファーム担当へ回り、代わりに指揮官の現役時代からの“盟友”である二岡智宏二軍打撃コーチ(40)の昇格が有力となっているぐらい。主要ポストであるヘッドコーチ、二軍監督は村田真、斎藤両氏の留任が濃厚となった。

 この異例人事の裏ではどんな動きがあったのか。球団幹部はこの日の試合後、都内ホテルで一軍全コーチと早速、面談の場を持った。「通告だけで終わる年もあったが、今年に関しては、こちらの評価を押し付けるようなやり方をしたくはない。各コーチの意見をしっかりヒアリングする」とし、実際の人事には、その結果が強く反映された。

 最も大きかったのは、由伸監督の意向だ。その最たる例が、村田真ヘッドコーチの留任。チームが低迷した前半戦終盤ごろ、責任を感じる同ヘッドは周囲にそれとなく辞意を漏らしていた。一時は球団内でも配置転換やむなしの空気が流れたが、若い指揮官の信頼は厚く、続投を強く希望した模様だ。ベテランの尾花投手コーチがとどまったのも同様の理由だったという。

 球団幹部が熱っぽくこう語る。「コーチの入れ替えで責任の所在を明確化するやり方もあるが、今年に関してはそれでいいのかと。確かに優勝は逃したが、今年は若い監督に代わって様々な新しい取り組みが動き始めた“改革元年”。選手の指導や育成は、長期的な視野で取り組んでいる部分も多い。安直な人事で済ませるより、監督を強固に支え続ける体制を守ることが重要と判断した」

 一方、補強面では大胆に動く。近日中に今季国内FA権を獲得した長野の慰留に乗り出すほか、糸井(オリックス)、陽(日本ハム)、岸(西武)、山口(DeNA)ら、久々に大物が並ぶFA市場へ本格参入する。強打の外野手と先発候補を軸に、すでに調査は進行中だ。今季課題が露呈した外国人に関しては、大量獲得方針を見直し、慎重に精査する。国内球団からの“強奪”は見送り、自前補強路線が濃厚だ。トレードも出血を覚悟で断行するとしている。

 広島、DeNAの若さと勢いにのまれ、今季は“力負け”と感じた試合も少なくない。盟主の再建は課題山積。球団は来季こそ、由伸監督を支える強力な体制を構築できるか。