新たな伝説の幕開けだ。4年目の鈴木は交流戦中の3戦連続決勝弾など「神ってる」活躍でレギュラーに定着するなど大ブレーク。1993年に27本塁打を放った前田智徳以来となる球団3人目の高卒4年目での20本塁打もクリアした。V決定試合でも2本塁打を放った若鯉が、新たな目標としているのが、偉大な先輩のつけていた背番号1の継承だ。

 悔しさから始まったシーズンだった。キャンプ中の練習試合で右太もも裏を痛めて戦線離脱。レギュラー奪取を期していたのに開幕二軍スタートとつまずいた。しかし、満を持して4月5日に昇格すると走攻守で高い能力を発揮。6月17、18日のオリックス戦では史上10人目となる2試合連続サヨナラ本塁打、同19日にも決勝弾を放った。そのとき緒方監督が発した「神ってる」というフレーズは流行語になるほど浸透した。

 4年目の大ブレーク。レギュラーに定着したばかりか、打率3割3分3厘はリーグ2位で、逆転首位打者となればMVP候補に浮上してもおかしくない状況だ。それでも鈴木は現状を謙虚に受け止めている。なぜなら、将来的に背番号1を背負う大きな野望を秘めているからだ。

「1」は2013年限りで現役引退した前田智徳氏(現評論家)が背負っていたもの。「孤高の天才」「侍」と評されて絶大な人気を誇ったため、簡単につけることは許されず、後継者探しは難航。現在は“空き番状態”となっている。

 しかし、今季の活躍でチーム内からは「持っている能力が一級品であることは間違いない。それに加えて重圧に負けないハートの強さもある。誠也なら、あの番号に恥じない活躍をすることができる」(チーム関係者)と鈴木に後継者としての期待が掛けられ始めている。そしてなにより鈴木自身も「『1』はカープにとって特別な番号。いつかはつけたいという思いはある」と熱望しているのだ。

 簡単に手にできるとは思っていない。「今の自分ではダメ。今年くらいの成績を最低3年は残さないといけない」。背番号1をつけるため、来年以降も高い数字を残し続けるというノルマを自らに課している。

 前田氏も入団当初は今の鈴木と同じ51番を背負っていた。“誠也伝説”は始まったばかりだ。