プロ野球巨人軍の選手たちによる野球賭博事件で、賭博開帳図利ほう助と常習賭博の罪に問われた元投手の笠原将生被告(25)、胴元役として賭博開帳図利罪に問われた元飲食店経営者斉藤聡被告(38)が11日、東京地裁で行われた初公判でともに賭博への関与を認めた。12日には別ルートの胴元役だった名古屋市の大学院生2人が逮捕された。笠原被告らの法廷では野球賭博の構造が明かされる一幕もあったが、事件をめぐる闇は深い。

 ともに色黒の2人は連れ立って法廷に姿を現した。笠原被告は黒地に白のストライプのスーツに白いシャツ、白いネクタイ、黒いショートブーツという服装。茶髪まじりでスーツもブカブカだった。一方の斉藤被告はメガネにヒゲ姿。細身の紺のスーツに白シャツ、紺のネクタイ、こげ茶の革靴にくるぶしがのぞくショートソックスをはき、入廷時にはハンドバッグの中の携帯電話が震えていた。

 起訴状では、笠原被告は2014年9月から15年8月、松本竜也(23)、高木京介(26)元選手らから賭け金を集め、斉藤被告の賭博を手助け。自身もプロ野球と高校野球で現金約120万円を賭けたとしている。斉藤被告は14年5月~15年8月、プロ野球と高校野球計12試合を対象に笠原被告らに賭けさせ、野球賭博を開いたとしている。

 検察側の冒頭陳述で起訴内容が読み上げられると、斉藤被告は「(間違いは)ありません」、続いて笠原被告も「間違いありません」と述べた。検察によると、笠原被告は取り調べで「チーム内でトランプを使った賭け事をしており、(斉藤被告に誘われた際も)野球賭博に抵抗感がなかった。これまで(14年3月から15年9月)に計1575万円を賭けた」と供述している。

 この日、検察側は野球賭博の構造について、まず「大胴元」「中胴元」「小胴元」がいると解説。上位の胴元には暴力団関係者が位置し、斉藤被告は小胴元だったと指摘した。弁護人も斉藤被告に、賭けのレートとなるハンデを送っていた中胴元S氏の実名を挙げて質問し、斉藤被告もこれを認めた。
 ハンデは試合の約2時間前に斉藤被告の元に届き、それを笠原被告に伝達。笠原被告が、高木、松本元選手らに情報を再伝達したうえで、金銭の授受も仲介していた。

 韓国人の妻を韓国に置いて単身、東京で生活していた斉藤被告は愛人の銀行口座を賭博の金銭授受に使用。賭けた人間が当たった時は賭け金の1割を手数料として受け取り、外れた場合はすべて、自分の懐に入れていた。

 とはいえ、中胴元への“上納金”も相当な額に上っていたようで、数試合のプロ野球賭博で計350万円の金が動いた時でも、斉藤被告に残った金は13万6000円だったことなども明かされた。

 賭博事情に詳しい関係者は「いろいろと細かい話は出たが、結局は末端の人間の裁判にすぎず、核心は全く明らかになっていない。実名が出たS氏は斉藤被告の飲食店経営のビジネスにも関与しており、表と裏の顔の使い分けにたけていたとされる人物。そうした部分も含め、現在も当局は上流への金の流れを追いかけている最中。もう1つの賭博ルートである名古屋の大学院生も捜査を続けている」と指摘する。

 なお、警視庁組織犯罪対策課は12日、笠原被告らを客に賭博を開いたとして、いずれも胴元役で名古屋市の大学院生、松永成夫(40)、大石健太郎(26)の両容疑者を逮捕した。逮捕容疑は、14年3月~15年8月のプロ野球約15試合、15年の高校野球約15試合を対象に、笠原被告と福田聡志元選手(32)を含む客8人に賭けさせて手数料を徴収し、利益を得た疑い。

 笠原被告らにまつわる“斉藤被告ルート”と“名古屋ルート”が摘発されたわけだが、両容疑者とも小胴元にすぎないだろう。闇が解明されるのは先のことになりそうだ。

 なお、2人の弁護人は、金銭の授受や計算、ハンデ情報の連絡などが特定の場所で行われていなかったとし、「賭博場は存在しない」と主張。笠原被告の常習賭博の罪以外は刑法的に成立しないと、争う姿勢を見せている。次回の公判は9月5日に行われる。