巨人の“総帥”も我慢の限界か。7日、高橋由伸監督(41)が都内の読売新聞東京本社を訪れ、渡辺恒雄前球団最高顧問(読売新聞グループ本社代表取締役主筆=90)ら本社トップと会談し、前半戦の経過報告を行った。そんな日に行われた阪神戦(東京ドーム)は、虎のルーキーに打線が1安打にひねられ、0―6の惨敗。観戦に訪れた渡辺氏の怒りはすさまじく、球団内には衝撃が走っている。

 連勝した勢いなど、みじんも感じられない。虎のドラフト5位ルーキー右腕・青柳から、打線は7回までたった1安打。先発の高木も3回4失点でKOされ、結局最後まで見せ場なく敗れた。

 この日の試合前、由伸監督は読売本社を訪問し、渡辺氏ら幹部へ前半戦の経過報告を行った。その席で渡辺氏からは「まあ、頑張れ」と激励されたことを明かしたが、渡辺氏も観戦したその後の試合は、言い訳できない惨敗。試合後の指揮官は表情に怒気が満ちていた。「(打者は)必死に打ちにいっているんでしょうし、投手も抑えようと思っているんでしょうし、こういう結果になったのは力負けしたということ」と、感情を押し殺すように淡々と振り返ると「情けない試合になってしまった。応援してくれる人に申し訳ない」と頭を下げた。

 その数分後、今度は渡辺氏が口を開く。会談内容について質問が飛ぶと、具体的な内容について言及しなかったが「こういう時に高橋君と無駄話をするわけがない」と切り出してから、指揮官のクールな人物像を絶賛。「彼は頭がいいからな。野球選手として最高の頭脳の持ち主。シャープ。そして彼は無表情。無表情っていうことは、感性がないと思っている人がいるが、それは違う。彼も笑ったりする。一般論として、彼ほど頭がいい人はめったにいない。さすが慶応だ。無表情というより感性豊か。それを理性でコントロールしているんだ。感性は十分持っている。だが、記者の前ではあんまり自分の感情をそのまま出さん。コントロールする能力、知恵がある。最高の人材だ」とほめちぎった。

 一方、チームはこの日の敗戦で、首位広島と10差の4位。これには一転して不機嫌モード全開で「そんなこと聞くな、不愉快!」と叫ぶと、その後は止まらない。「2連勝して今日は勝つと思ったが、やっぱりこれはね、由伸の責任じゃねえからな。フロントだよ。だって補強してねえじゃん。今の陣容で勝てったって無理だよ」と、球団の補強姿勢を一喝した。

 さらに「広島以外は2、3試合連勝すればひっくり返る。2位になるのはなんでもない。ただ、広島を抜けるかどうかだけ。これがね、必死になれば何とかなる」と続けたが、過渡期にあるチーム事情には一定の理解も示した。「でも、ならなくってもいい。いいっちゃおかしいが…。だって、長嶋もワンちゃん(王貞治)もボロボロになったのを引き継いだ時に負けたじゃないか。ボロボロを引き継いで、すぐ勝てるわけないよ。だけど、まだメークミラクルの可能性はある。そこまで持っていっているんだからいいんだよ。これでメチャメチャ頑張れば、俺は何も批判しない。来年は必ず優勝するように」と、来季の優勝を厳命しつつ、今季に関しては異例の“V逸容認発言”が飛び出した。

 その後、一度は「まだ諦めてないよ」と言い直したが「楽観ばかりしているのはバカだ。負けた場合も考える。勝った場合も考える。経営者として当たり前」と語ると、冷静なトップの表情を崩さずに球場を後にした。

 読売トップの大演説終了後、フロントが凍りついたのは言うまでもない。渡辺氏が監督の前半戦報告の日に姿を現し、口を開いた意味は重い。“V逸容認”と由伸監督を擁護する発言は「監督の責任は問わない」という強いメッセージを発するものである一方、補強への不満はフロントへの警告だったのは間違いない。

 なんとか上位に踏みとどまっていればいいが、仮に早々と脱落し、下位に低迷するようなら再噴火は確実。由伸監督の責任問題に発展する可能性は低いが、オフは人事、補強面で猛烈な嵐が吹き荒れそうだ。