阪神が11日の巨人戦(甲子園)を1―3で落とし、3連敗で勝率5割に逆戻りした。前回4月27日の試合で完投白星を許した巨人の先発・田口にまたしても7回途中3安打に抑えられる貧打を露呈。金本知憲監督(48)は「打線は毎度、毎度、同じやられ方をしている」と怒り心頭だったが、本紙評論家の伊勢孝夫氏は波に乗れない猛虎軍団に強烈な苦言をぶっ放した。

【伊勢孝夫・新IDアナライザー】まずこの試合で最初に私が言っておきたいのは今季から導入されたコリジョン(衝突)ルールについてだ。3回表二死二塁で脇谷の中前打を処理した大和が本塁へ好返球。あれは完全に「アウト」で金本監督が怒るのも当然のこと。捕手の原口はベース側へ後退しながらの捕球になったが、股下は十分に空いていた。無理な体当たりなどは論外だが、あの程度でコリジョンが適用され「セーフ」ならばクロスプレーそのものがなくなってしまう。ギリギリのプレーは選手にとって大事な見せ場であり、ファンが一番エキサイトする瞬間でもある。今のルールでは、その魅力がなくなり、ファン離れになってしまう恐れがあると危機感を感じた。

 ただ、コリジョンに水を差されたにしても伝統の一戦にしては寂しい内容の試合だった。なかでも気になったのは金本監督の采配の部分だ。3点ビハインドの6回裏一死から北條が四球で出た場面。打席には次打者のメッセンジャーがそのまま入り結局、スリーバント失敗に終わったが、ここは代打を出すべきだった。現在の阪神打線の調子からすると追いつける限度は3点差までだ。前日は雨天中止、翌日は試合なしで中継ぎをつぎ込みやすいことを考えても、ここは代打で勝負するのが常とう手段だった。その辺りの勝負勘が鈍っているのか、1年目で経験不足なのか、あの場面の決断には疑問が残った。

 鳥谷の状態の悪さも気に掛かる。7回に1点を返してなおも無死満塁の好機で投手への併殺打を放ち、せっかくの勢いを台無しにしてしまったが、今の鳥谷は手先だけで打とうとして下半身を使えていない。今年35歳の年齢を考えても遊撃守備の負担の大きさがたたっている。金本監督は鳥谷に「お前が変わらないとチームは変わらない」と言っていたが、現状は変わりたくても変われない状況だ。

 あえて言うが復調のためには鳥谷の連続試合フルイニング出場を止め、休みを入れながら試合に出すこと。素晴らしい記録であることは間違いないが、チームの勝利が優先だろう。私もかつて広島のコーチ時代に連続試合出場を続ける衣笠祥雄に休みを与えるよう当時の阿南監督に提言したものだ。休みを取ることで鳥谷自身の選手寿命も長くなり、そして後継者となるべき、若手を起用する機会を得ることができる。そういったことを考える時期に今こそ来ているのではないか。

 打線という視点に立てば主軸を鳥谷、福留、ゴメスで固定すべき。期待の表れということは分かるが、育成枠から這い上がってきた原口の5番起用はまだ早い。日替わりオーダーで、クリーンアップをコロコロと変えるのは苦しいチーム事情を明かしてしまっているようなもの。ライバル球団にもナメられる。

 金本監督の若手への“直接指導”が多いことも裏目に出てはいないか。指導については監督、首脳陣で意思統一は取れているだろうが、言葉遣い一つで聞く方は全く違う解釈をしてしまう危険がある。それが打線の微妙なほころびになってしまうこともある。私が今まで仕えてきた野村監督、長嶋監督、王監督はほとんど選手に指導することはなかった。コーチの立場を尊重してくれたからだが、金本監督もそうする時期に来ているかもしれない。(本紙評論家)