【プロ野球 天の声・ウグイス嬢たちの素顔(2)】プロ野球のウグイス嬢にスポットを当てる当連載。今回は千葉ロッテマリーンズで今年が26年目となるスタジアムアナウンスを担当、「サブロ~~~~~!」の甲高く透き通る美声で人気を集める谷保恵美さん(50)です。

 谷保さんの通勤時の姿は、ほのぼのしている。本拠地の試合のアナウンスをたった1人で行うなどハードな日々で息抜きとなっているのが、大好きなKポップアイドルの歌を鼻歌交じりで口ずさむことだという。

 現在のお気に入りは男性6人からなる人気アイドルユニットの「ビースト」。根底にあるのはファンを思う気持ちだ。

「とにかく暗い気持ちになると明るい声が出ないので、試合の時は『明るくいよう』と意識しています。気持ちは声に出ます。来場する方にも伝わると思うので、常に明るい気持ちでいられるよう心がけています」

 年に1回しか球場に足を運べないファンもいる。たまの野球観戦、精一杯楽しんで帰ってもらいたい。そんな思いからのルーティンだ。

 父親の直政さんは帯広三条高校で2度、帯広北高校で2度、甲子園に出場するなど、高校野球の強豪校で監督を務めた。そんな環境で育っただけに、家では野球が常に身近にあったという。高校、大学と野球部のマネジャーをやるうちに、少しでも野球に携わる仕事をしたい思いが強くなった。

 就職浪人をしてまで3年間、季節ごとに各球団に問い合わせの電話をかけ続け、願いがかなって、当時のロッテオリオンズに入社したのは1990年。経理担当で入社し、翌91年から球場アナウンスを担当することになった。

 開始当初も苦労の連続だったという。アナウンス技術は他球団の試合を回り、各球場のウグイス嬢の発声を聴き、独力で学んだ。「『こういう場面でファウルボール注意と入れるんだ』とかメモを取りながらやってました」(谷保さん)

 その後、94年からは一軍の本拠地試合すべてを1人で任されることに。今シーズンは、ウグイス嬢としては26年目になる。

 今では千葉ロッテマリーンズの名物ともなったサブロー選手(39)のアナウンス誕生のきっかけも、ふとしたことからだった。もともと選手名を明るく呼ぶことを意識し、語尾が上がる傾向があったことに加え、本人が活躍する場面が増えた2005年ごろから、徐々に語尾が伸び始めた。「サブロ~!」から「サブロ~~~~~!」への変遷は、いわばファンから選手への期待値が高まる中、自然と生まれた谷保さん流のファンサービスだった。

 また、ここまで長くアナウンスを担当する中、印象的だったのは小宮山悟(現評論家)、黒木知宏(日本ハム一軍投手コーチ)ら90年代、弱小期のチームを支えた選手たちだという。

「なかなか点数が取れない中、投手が抑えて、抑えて、そこで一発が出て勝つといった形。先発完投する投手に『エースの姿』を見ました」

 時代は変われども、選手たちが懸命に戦う姿勢は変わらない。谷保さんは今年もKポップをお供に球場に通いながら、チームの勝利を願っている。

☆たにほ・えみ=1966年5月11日生まれ、北海道帯広市出身。札幌大学女子短期大学部卒業後、90年、ロッテオリオンズに23歳で経理担当として入社。翌91年から主に二軍のアナウンス、94年から一軍、本拠地主催ゲームのアナウンスを1人で担当している。好きな食べ物はロッテ「ガーナチョコレート」。血液型=A。千葉ロッテマリーンズ事業本部 興行・施設管理部チーフ。