2年連続開幕投手に指名された日本ハム・大谷翔平投手(21)が24日の韓国・KIA戦(名護)で3回1安打無失点、5奪三振と好投。開幕戦のロッテ戦(QVC)に向けて、順調な調整ぶりを見せた。昨年、投手3冠に輝き本格的な二刀流が解禁となる今季は、名実ともに日本球界での「絶対的エース」の座を固める年でもある。その大谷が本紙評論家・前田幸長氏に明かした「4年目のテーマ」とは――。

【前田幸長・直球勝負】1年ぶりにキャンプ地で会った大谷君の覚悟とスケールの大きさに私はうならされた。チームの、そして球界の絶対的エースになることが求められている今季に、21歳の青年が何度も口にしていたキーワードが「圧倒的な投球」だったからだ。

 去年の投球を普通にやっていれば問題なく15、16勝は約束された存在。しかし、彼は「目指すところはそこではない。相手を圧倒するピッチングをしてもっと上の数字を目指したい」と真正面から私に剛速球を投げ返してきた。

 彼のいう「圧倒的投球」とは相手が狙っていても打たれない投球をすること。相手打者が狙っているボールを投げても前には打たせず、ファウルや空振りを取る究極の投球をするということだ。その完璧なスタイルを彼は「20代前半で手に入れたい」とも言っていた。

 その裏にはやはり昨年のCS第1ステージ第1戦で3回途中5失点KOされた苦い経験もあるようだ。3月25日の開幕戦で投げ合う相手は、昨年同じ15勝で最多勝を分け合ったロッテ・涌井。その涌井はあのCS第1S第3戦で7回途中まで8安打4四球と苦しみながら日本ハム打線をわずか1失点に抑え勝利投手。まさにエースとしてファイナル進出の立役者となった。

 そこで私が「涌井にあって大谷翔平になかったものは?」という少し意地悪な質問をぶつけると、彼は「粘り強さという部分で去年はもろさが出た」と自身の大きな課題を挙げた。状態が悪くても絶対に負けられない一戦で、どれだけチームを勝たせる投球ができるかはエースという立場の投手に課される命題だが、彼なりの答えが「圧倒的に相手をねじ伏せる投球」につながっているようだ。

 この彼の気にする「粘り強さ」という課題は、実際のゲームの中でしか克服できないテーマだけに難しい。常にピンチを背負いそれでも相手に得点を許さない投球、または序盤に失点しリードを許しながらも投球を立て直して味方の援護を待つ投球。いずれも負けられない重要な試合の中での経験値がモノをいうだけに練習はできない。高校時代にトーナメントの甲子園で準V経験のある涌井と勝利経験のない彼の差が出てしまう部分でもあるのだ。

 だから今でも圧倒的な能力を持ちながら序盤に5失点してしまう「もろさ」も同居する大谷君は、トータルの総合力をパワーアップさせて相手打線に絶望感を与えるような究極の投球を目指すのだろう。

 私の現役時代の経験でいうと、若くして圧倒的な投球をしていたのは巨人時代の上原がそうだった。なかでも7試合連続完投勝利をした時などは、敵も味方も観客も全てを圧倒した。本当の「圧倒的投球」とは「今日のデキなら打たれんやろ」と味方野手陣を安心させ「今日は出番がないな。休みだ」とブルペン陣から全幅の信頼を置かれていたあの当時の上原のような投球だと思う。

 大谷君が自分の弱点を自覚し、ピンチの場面すら作らせない圧倒的投球で補うというのなら…。その究極の形を見てみたい。

(本紙評論家)