<清宮幸太郎・16歳の怪物 フィーバーの裏側(下)>

 早実(西東京)の試合や練習にほぼ顔を出すのが、和泉実監督の父・次夫さん(84)だ。監督を早実の父とすれば“早実の長老”と言うべき存在だろう。野球部を見守ってきた次夫さんからは、清宮のさらなる飛躍のための“緊急提言”が飛び出した。


 2人の出会いは清宮が中等部1年のとき。「調布シニアの練習に向かう彼を調布駅で見かけて声をかけた。怪しい者じゃない。早実の監督の父親だってね」。「え~っ!」と驚く清宮に「もし野球をやるんなら早実でやりなよ」と伝えたところ「なるべく入ります」と答えたという。早実入りのキッカケには“長老”のススメもあったわけだ。


 そんな次夫さんは長らく警視庁で、いわゆる公安警察として中国や北朝鮮などのスパイに目を光らせてきた。選手に注がれる眼光も鋭い。「右足の位置を大会期間中の練習でも変えてきた。まだまだ打つ」。進化を見抜いた次夫さんの“予言”通り、清宮は2試合連続本塁打をやってのけた。


 だが、胸中にはじくじたる思いも。「しょせんは1年。彼1人のチームじゃない。清宮には『1年らしく楽しめ。すべて背負うな』と伝えてある。あの子だけ目立つチームじゃダメ。上級生も目立たないと勝てない」


 野球部では昨年から上下関係の“規制緩和”を実施。下級生が電車で座ることや、練習中に帽子を取るなどの禁止事項を「世間が変わる中、下級生が野球をのびのびやる方が大事」(ある選手)として撤廃した。その雰囲気のおかげで清宮が活躍した面もあるが「下級生の態度が緩み、行動が遅いこともあった」との懸念もある。1年の台頭はチームに良い作用を及ぼす一方、まとまりを悪くする可能性ももたらす。3年が去って、清宮の存在感が増すことは間違いない。そんな清宮におんぶに抱っこではなく、触発されて新しいスターが輩出される…。それこそが“長老”の望む未来だ。


 日本中の話題の中心といっても過言ではなかった今夏の清宮だが、28日開幕のU―18ベースボールワールドカップの高校日本代表にも選出されており、怪物のフィーバーはまだまだ続く。