巨人が10日の阪神戦(東京ドーム)に4―2で勝ち、4連勝で首位を守った。ヒーローは1点を追う2回、メッセンジャーから値千金の逆転4号2ランを放った村田修一内野手(34)だ。今季不振に苦しむ大砲は、お立ち台で感極まって男泣き。涙の一発の陰には、強い結束で支える家族の存在があった。

「パパのホームランが見たいと言ってくれる息子の前で打てて良かったです…」。村田はお立ち台で家族が観戦に来ていたことを告白すると、人目をはばからず涙を流した。


 村田に手厳しい原監督が「ちょうど、まばたきしていて、わからないぐらいのスイングと打球の速さ。見事だった」と思わずうなった一撃が飛び出したのは、1点ビハインドの2回一死一塁。メッセンジャーの外角スライダーに力強く合わせ、村田らしく逆方向へ伸びた打球は、そのまま右翼席に突き刺さった。


 実に4月30日の中日戦以来となる本塁打。ベースを一周する感覚も「久しく打ってなかったので忘れかけていた」という。この日は決勝弾を含む2安打2打点の活躍だったが、成績は今も2割2分9厘、4本塁打、11打点と寂しい。打順は下位が定位置になった。


 プロ13年目で最長のスランプ。屈辱の日々に耐えるなかで生まれた一発は、一番近くで見守ってきた家族の涙も誘った。試合を観戦後、3人の子供を連れて真っ赤に目を腫らして現れた絵美夫人は「今日はホームランよりも、あのインタビューを聞けたことが良かったです…」と声を詰まらせた。


 絵美さんによると、今季は家でも「子供たちが寝た後は、声をかけづらい空気でした」という。それでもここ数日の村田は少しだけ明るい表情を見せるようになり「俺が打てなくても、チームが勝てばいいんだよ」と前向きな言葉を急に口にするようになったという。


 村田の心境が変化した理由は、本人にしか分からないが、きっかけのひとつは、先週末に届いた“母の手紙”だったろう。福岡の両親も、最近テレビで見せる村田のふてくされたような表情が気になっていた。父・裕文さんは「球団も補強に動き始めている。本人はつらいだろうな」と心配していた。


 そこで母・明美さんが、家での様子をメールで絵美さんに尋ねると「心が折れかけているかもしれません」と弱気な返事が戻ってきた。「ああ、これはただごとじゃないな」と感じた明美さんは、すぐに「修さん、心だけは腐らしたらいけんよ」としたためた手紙を息子へと送ったという。返事はなかったが、母は「数日前から、少しだけ表情が明るくなったかな」と小さな変化を感じていた。


 たった一発で信頼を回復できるほど、村田が置かれた立場は甘くない。それでも絵美夫人によれば、来春に小学校へ入学する次男・凰晟くん(6)は今、オレンジ色のランドセルをせがんでいるという。「3番目(瑛梧くん=9か月)も生まれたばかりだし、もうちょっと巨人で頑張ってもらわなきゃ」。球界屈指の結束を誇る一家の支えを背に、男・村田は意地の巻き返しを見せられるか。