【前田幸長 直球勝負】2年連続日本一を目指すソフトバンクは20日現在、10勝8敗1分けで2位に甘んじている。物足りなさを感じるファンも少なからずいることだろうが、出遅れているわけではない。作戦面や選手起用に今までにはなかった“色”が見え始めている。今年から指揮を執る工藤公康監督(51)の胸の内は…。本紙評論家の前田幸長氏が、巨人時代の先輩でもある新指揮官に今後のビジョン、そして気になる松坂の扱いについて聞いた。

 先週末にQVCマリンで行われたロッテ戦の前に、工藤監督に話を聞かせてもらった。その際に何よりも驚いたのが、これだけの戦力を誇るチームを預かりながら「チャンスを与えて20代の若い選手を育てたい」「新しくレギュラーになれる選手を育てないといけない」といった言葉がポンポンと飛び出してきたことだ。

 監督としてチームの勝利が第一なのはもちろんだが、その上で何が何でも今年1年間のことにこだわるというのではなく先を見据えて強いチームを作りたい――ひいては常勝軍団を作らないといけないというビジョンを思い描いているという。

 工藤監督は指導者1年目。普通なら結果を出したいと思うし、目先のことにこだわって勝ちたいはず。しかも、任されたのは昨年の日本一チームだ。1つでも順位を落とせば批判の矢面に立たされる危険性もあり、なかなか「将来を」という発想にはならない。

 工藤監督はそんな立場にありながらも、チームの行く末を第一に考えている。「3年間で育てないといけないと思っている」という言葉からは強い意志を感じた。監督業は1年ごとの勝負ではあるが、その中で任されている3年間を使って、いかに若手選手を育てていくかを自らの使命としている印象を受けた。

 これまでの試合を見ていても、若手選手にかなりの出場機会を与えている。手術明けの長谷川の不調や本多の故障など、主力に万全ではない選手がいるとはいえ、直近では19日のロッテ戦で、前日にスタメン起用した、実績のある吉村と明石を揃って外して、若い牧原、高田を起用した。投手に関しても同様で、二保ら若手を大事な場面で使うケースも多々ある。

 なぜここまで育成にこだわるのか。工藤監督が一番気にしていたのが、チームの中心となっている野手の年齢が揃って30代になっていることだ。しかも、それぞれの年齢が近い。内川が今年で33歳、松田が32歳、本多も31歳を迎える。助っ人の李大浩にしても、いずれはチームを去るだろう。

 脂の乗っている今はいいが、数年後には一気に世代交代が必要な時期を迎える。そのときになってからでは間に合わない。それまでに新しく取って代わることのできる選手を育てたいというわけだ。

 投手出身の工藤監督には野手のことで分からない部分も多いはず。特に打線に関しては、勝ちたいと考えれば昨季の日本一になった形にした方が楽なように思える。しかし工藤監督は平然と「一番やりたいのは育成だからね」と言ってのける。この考えには驚いたし、感心させられた。

 ソフトバンクには、どうにも気になる点が1つある。インフルエンザ感染で出遅れ、右肩の筋疲労でリハビリが続いている松坂のことだ。今年の補強の目玉だったが、いまだ登板のメドすら立っていない。2週間以上もノースロー調整が続いていたことを考えれば、前半戦に帰ってくることも難しいかもしれない。

 結論から言えば、工藤監督の答えは“静観”のひと言だった。「これまでに『(いつまでに)合わせてくれ』というのはないし、投げられる状態になるまで任せるしかない」とのことで、あくまで気長に待つスタンスのようだ。

 現在、先発陣の頭数は揃っている。松坂には申し訳ないが、今どうしてもという状態ではないのも確かだろう。ただ、6連戦がある際の、ベストの先発として考えている6人には入っているとも話した。

 投げられる状態でない以上は仕方ないが、工藤監督の思い描く先発ローテーションのピースとして、松坂が投げる姿を早く見てみたいとも思う。 (本紙評論家)