【大下剛史 キャンプ点検(日本ハム編)】

 日本ハム・中田翔は、心技体すべての面において相当に調子がいいようだ。久々に顔を合わせ、すぐに直感した。したたり落ちる汗を拭いながら「このキャンプは、いい形でやれています」と力を込めた彼の言葉は、鍛え上げた筋骨隆々の肉体とともに大きな説得力を帯びていた。

 野球少年のような目で私の言葉をじっくりと聞き入る姿にも「変わったな」という好印象を持った。プロ入り当初に“広島のダダっ子”と見られていた面影など、今はみじんも感じられない。現状に甘んじることなく何でも貪欲に吸収しようという考えが、言葉の端々と表情に表れていた。

 昨季の中田は144試合にフル出場し、初の個人タイトルとなる打点王に輝いた。それが自信となったのだろうが、攻守両面で不調の時にアドバイスを受けていた稲葉篤紀氏(引退)と小谷野栄一(オリックス)がオフにチームを去り、いよいよ一本立ちせねばならない時も来た。そういう境遇の変化も手伝って「やってやるぞ」という意識が倍加したのだろう。チームの主砲として、そして侍ジャパンの4番として、より真摯でひたむきになった「中田翔」という男がますます頼もしく見えた。

 問題はこれをシーズンに入ってからも持続できるかどうかだ。打者は10回中7回は失敗する。それを念頭に置き、長いシーズンの中で好不調の波にあえいでもイラつくことなく、今のように純真無垢でいられれば本物だ。昨季は三振を喫してベンチに下がる際にバットを叩きつけるシーンが、何度か見受けられた。日本を代表する打者として、あのような振る舞いを見せるべきではない。

 いつも手厳しい白井一幸内野守備走塁コーチが「今年は全然違います」と中田に太鼓判を押していた。楽しみである。(本紙専属評論家)