阪神は1日、沖縄・宜野座での春季キャンプをスタートさせた。今回の注目は臨時コーチを務める“伝説のOB”江夏豊氏(66)。そのためか、初日のブルペンではアピールする投手が続出し、大いに活気づいたが、そんな中、日本人投手で唯一“江夏詣で”を回避したのが、3年目の藤浪晋太郎投手(20)だ。相手が誰だろうと、キャンプ前から予告した“オレ流調整”を貫くその姿に、チーム内から拍手喝采が巻き起こっている。

 8000人の観客が集結した中、注目を集めた江夏氏は、ブルペンでの投球練習を見守り、能見や岩田らに助言を送るなど精力的に動いた。「2月1日に“始動”したのは何年ぶりかな。(阪神のキャンプでは)昭和50年以来や。いい思い出になりました。我々の時代は2月1日にブルペンに入ったことはなかった。3人投げなかったが、他は全員投げて全力投球ですごいな、と思った」

 江夏氏の言う「投げなかった3人」とは助っ人の呉昇桓、メッセンジャー、そして日本人投手でただ一人の藤浪。「特に深い意味はないです。2月1日にこだわっていない。自分のペースがある? そうですね。明日は(ブルペンに)入りますよ」とキャンプ前に宣言した通り、“オレ流調整”を貫いてのものだ。

 普通なら偉大なOBが来ているのに投球を見せないのは失礼にも当たるところ。しかも江夏氏が今回臨時コーチを務める期間はたったの7日間。伝説のエースからエキスを伝授されようと思えば、他の投手のようにさっそく“江夏詣で”を決めるのが筋だ。江夏氏も「藤浪君は日本球界を代表する選手になってもらわないといけない器。じっくりと見たい」と話していただけになおさら投げておく必要はあった。

 ところが、藤浪は気にするどころか「(江夏氏に)怒られなくて良かった」とニンマリ。まだ20歳の投手とは思えない腹の据わりようで、球団もさぞや顔面真っ青と思われたが、逆だった。

 ある球団関係者は「普通の投手なら江夏さんが見ているとなれば多少ペースは崩してでもブルペン入りする。それでもペースを変えないんだからよほど今年に懸ける覚悟があるということ」と言い、別の関係者も「(オレ流調整で)シーズンが不調だったら何か言われるのは確実。『(広島の)前田と合同自主トレをして調整が遅れたんじゃないか』とか、周りに迷惑をかけかねない。それでも自分流を貫いているから、大したもの。自信も覚悟もあるということ」と拍手を送る。

 もっとも江夏氏も現役時代は一匹おおかみで、むしろ“元祖オレ流”の人間。それだけに「周囲に合わせず我を貫くあたり、逆に江夏さんは気に入ったんじゃないか」(球団関係者)と見る向きもある。実際、江夏氏は「先入観を持ってみるんじゃなく、新鮮な気持ちで見てあげた方がいい」と藤浪の姿勢に理解を示したほどだ。

 相手が誰だろうとオレ流を貫いて評価を上げた藤浪。まだまだ株は上がりそうだ。