巨人から期待の若手がまた一人いなくなった。FAで獲得した相川亮二捕手(38)の人的補償として、2年目の奥村展征内野手(19)がヤクルトに移籍することが9日、発表された。覚悟していたこととはいえ、巨人内部では“ポスト坂本”と見据えていたホープの流出にショックが拡大。上層部に対し、編成方針の見直しを迫る声も上がっている。

 熊本で井端と自主トレ中だった奥村が球団から連絡を受けたのは、8日夕方だったという。「最初は驚いた」と素直な感想を漏らしたが、すぐに「どのチームでも、プロの世界で戦える」と気持ちを切り替え、この日の早朝に帰京した。

 その足で、まずは巨人の事務所にあいさつに向かうと、関係者に付き添われてヤクルトの球団事務所で臨んだ移籍会見では「今は、やってやろうという気持ちになっている。走攻守、すべて揃えられるように頑張りたい。どんどん上を目指す」と力強い言葉を並べた。同席したヤクルトの小川シニアディレクターは、未知数の高卒2年目選手を選んだ理由について「将来性を評価した。持ち味を発揮してくれれば、間違いなくレギュラーとしてやってくれる選手」と説明。新しい背番号は56に決まった。

 巨人には、前向きな本人とは真逆の反応が広がった。奥村は一軍出場こそないが、数少ない生え抜きの主力野手候補だったからだ。高卒1年目ながら二軍ではレギュラーとして86試合を経験させたのが期待の証し。「粗削りだが、巨人の将来を背負っていく選手」と岡崎二軍監督の評価も高かった。

 昨秋に巨人に復帰した内田二軍打撃コーチも、秋季キャンプで目に留まった選手を聞くと、真っ先に奥村の名前を挙げ「シュアな打撃をしている。まだこれからだが、楽しみだ」と話したほど。同僚ナインからは「プロテクトしていなかったことが驚き」という声も上がった。

 ショックを受けているのは現場だけではない。スカウトの一人は一昨年のドラフトを振り返り「即戦力投手優先の方針の中、奥村は全員一致で指名を決めた選手。守備は上手だし、打撃が柔らかくてミートセンスが抜群。今となっては笑えないけど『青木(宣親)みたいな選手になるかも』とも話していた。将来はクリーンアップを打つでしょう。ルールだから仕方ないけど、まさか2年目の選手を選ぶとは…。未成年は獲得できないようにできないものかな」と未練をにじませた。

 一岡に続く2年連続の若手流出にチームの将来を危ぶむ声も聞こえる。あるフロントは「ウチは結構、高齢化が進んでいる。FAと外国人を優先しているせいで最近はドラフトも少数指名。ファームを見渡しても期待できる生え抜きの若手は数えるほどだし、数年後はどうなってしまうのか」と編成方針に疑問を呈した。

 奥村流出がただちにチーム成績に影響するとは考えにくい。とはいえ、坂本以降は高卒の若手が育っていないのも事実。将来を見据えてヤクルトが放った巨人への一撃は“ボディーブロー”のようにジワジワと効いてきそうだ。