【プロ野球大将2014:特別賞=ソフトバンク秋山前監督】あふれ出す涙を止めることはできなかった。圧倒的な戦力を誇り、ぶっちぎりで優勝するものと思われていたのに終盤にまさかの大失速。2位オリックスとのゲーム差はみるみる縮まり、リーグ優勝を決めたのは144試合目、10月2日にヤフオクドームで行われたシーズン最終戦だった。

 秋山前監督はその瞬間に号泣した。サヨナラ打で優勝を決めた松田と身をゆだねるようにして抱き合い、泣き崩れる寸前だった。日本シリーズ前に福岡市内で行われた決起集会でも、選手たちに次から次へとお酌され、またまた感極まって大泣きした。選手たちはうすうす知っていた。現役時代から強靱な肉体と精神力を誇っていた指揮官が、なぜ涙もろくなったのかを。今月9日、病魔と闘ってきた千晶夫人(享年55)が他界した。日本一を置き土産にしての退任劇の裏には、人に明かせぬ苦難もあった。