【大下剛史 熱血球論】(セCSファイナルS第3戦=17日、阪神4-2巨人)

 6回に同点打を放った福留、7回に2点タイムリーで試合を決めたゴメス、CS5連投ながら8回二死から打者4人でピシャリと抑えた呉昇桓。阪神を王手に導いたヒーローは何人もいるが、陰の立役者は2点を追う6回に右前打で出塁し、一死から二盗を決めた上本だ。

 打席には長打力のある4番・ゴメス。一発が出れば同点という状況で、失敗すれば大事なチャンスをつぶすことになる。並の走者ならリスクを考えてちゅうちょしてしまう場面だ。そんななかで上本は果敢にスタートを切り、二塁を陥れた。これがゴメスのタイムリーを生み、マートンと代打福留の連打で同点に追いつく発火点となった。

 杉内―阿部の巨人バッテリーにも隙はあった。ゴメスに初球を投じる前にけん制は入れていたが“とりあえず”投げておいたような1球だけ。15日の第1戦の初回に内海が無死一塁から上本にバスターエンドランを仕掛けられたのと同様に、警戒レベルが低かった。そこを突いた盗塁でもあったが、上本の勇気に阪神ベンチの士気が上がったことは想像に難くない。

 その上本は、16日の第2戦で澤村から頭部死球を受けながらも“こんなところでヘコたれてたまるか”とばかりにベンチ裏で数分の治療をしただけでプレーを続行した。173センチ、63キロと決して恵まれた体格ではない。ただ、全身にみなぎる闘争心は実に頼もしく、2番打者としての役割もしっかりと果たしている。

 個人的なことにはなるが、同じ広島出身で体格も似ていることから、上本には以前から目をかけてきた。バットを短く持ち、つなぎ役に徹する職人ぶりも板についてきている。まだまだ大暴れを期待したい。

 (本紙専属評論家)