【熱血球論:大下剛史】(セCSファイナルS第1戦=15日:阪神4-1巨人)

 あまりの淡泊さに思わず目を疑った。1回表のことだ。先頭の西岡に1ボール1ストライクから左前打を許した先発の内海と阿部のバッテリーは、続く上本の打席で初球にバスターエンドランを仕掛けられた。上本は一ゴロに倒れたものの、一塁走者の西岡は二進。巨人バッテリーは鳥谷にも初球をとらえられ、中越えの先制適時二塁打を許した。

 ここまでたった5球。長年プロ野球を見てきたが、本塁打以外でこれほど少ない投球数で1番打者から3番打者までの攻撃によって先制点を与えるなど、ほとんど記憶にない。

 原因は油断だろう。西岡を出塁させ、二番・上本の時に内海は一塁に一度もけん制球を投げなかった。確かに今季の阪神の戦い方を考えれば、次の上本は犠打の可能性は高かった。しかし、決めつけてかかるのは危険だ。虚を突くバスターエンドランを仕掛けられたのは、あまりに巨人バッテリーが無警戒だったからだろう。

 短期決戦においては、ちょっとした不注意が命取りになりかねない。経験豊富な内海と阿部なら百も承知のはずだが、それができていなかった。実戦から遠ざかっていることから慎重さを欠いたのかもしれないが、もし「1勝のアドバンテージがあるから」という緩んだ気持ちによる軽率なプレーで、そんなムードがチームに蔓延しているのなら、2戦目以降も足をすくわれかねない。

 レギュラーシーズンでは、6月8日に首位に立ってから一度もライバルに並ばれることさえなかったが、このファイナルステージではあっさりと1勝1敗(アドバンテージを含む)で並ばれた。今季の阪神は強さともろさが同居していたが、CSファーストステージ2試合で“守り抜く野球”を貫いて広島を下したことで、シーズン中とは別のチームに変貌した。阪神をナメてはいけない。巨人は早く、それに気づくべきだ。

(本紙専属評論家)