ヤクルトの山田哲人内野手(22)が6日、DeNA戦(神宮)の8回に今季192安打目となる29号逆転満塁弾を放ち、1950年に阪神・藤村富美男(元本紙専属評論家)が樹立した日本人右打者のシーズン最多安打記録(191安打)を64年ぶりに更新した。プレッシャーを感じるどころか劇的な一撃で金字塔を打ち立てた新星の素顔は、超マイペース男だった。

 歴史的瞬間が訪れたのは、2点を追う8回だった。一死満塁で迎えた第5打席。それまでに3安打して藤村の記録に並んでいた山田は、DeNA2番手・山口が3ボールから投じた4球目、146キロの直球を「空振りでもいいから自分のスイングをしよう」とフルスイング。打球は左翼席に飛び込み、初代ミスタータイガースの記録を塗り替えるとともに自身初となる最多安打のタイトルを決定的にした。

 4年目の今季は「日本プロ野球の宝になれる強運の持ち主」と絶賛した杉村繁打撃コーチ(57)の助言もあり、右方向へ打球を飛ばすことを意識し、非凡な才能を開花させた。しかし、ナインは「それだけではない」と口を揃える。それが山田のマイペースぶりだ。ある選手は「高校から入ってきた18歳の新人で、あんなことするヤツはいないですよ。見ているこっちの方がひやひやしました」と打ち明ける。

 入団1年目のことだ。ティー打撃の最中に山田は唐突にその場を離れ、ベンチに帰ってしまった。水分補給を終えると、コーチを置き去りにしたまま戻ってくることはなかったという。

 別の選手は「先輩から何を言われても、他のことを考えながら『ハイ、ハイ』と聞き流せる。それも、ある意味の能力。でも憎まれないからすごい」と話す。周囲の環境や何事にも動じない強心臓ぶりこそが、打席での重圧をハネのける原動力だというわけだ。

 ドラフト1位だが、日本ハム・斎藤佑、楽天・塩見の「外れ外れ1位」。規定打数に達したのは今季が初めてだが、ライバルの広島・菊池が188安打でシーズンを終え、7日のDeNAとの今季最終戦(神宮)を前に最多安打の初タイトルも手中にした。山田は「取れてよかったです。今年の成績は自分でも想像がつかなかった」。この日の満塁弾で本塁打数はリーグ日本人トップの29本とし、打率も3割2分4厘(6日現在)とリーグ3位で、早くも日本一の右打者になったといっていい。

 来季はシーズン安打でイチロー超え(210安打)や、阪神・マートンが持つ日本記録(214安打)更新も決して夢ではない。チームは2年連続の最下位だが、伸び盛りの22歳は「最後まで気を抜かずに、1本でも多く打てるようにしたい」と、どこまでも貪欲だ。