虎の転落が止まらない。阪神は11日の巨人戦も2―6と完敗し、今季ワーストとなる泥沼の6連敗。1999年7月以来15年ぶりに本拠地の甲子園で宿敵・巨人に3タテを食らうという最大級の屈辱も味わった。4位・DeNAとは3.5ゲーム差。優勝争いから一転してBクラス転落危機に直面し、和田豊監督(52)の続投方針も揺るがす「世紀の大失速」だ。なぜ虎は失速したのか――。徹底検証した。

<検証1>まず大失速の要因として挙げられるのが虎ナインの精神状態の変化だ。 

 2月の春季キャンプからシーズン中盤にかけて選手は“チャレンジ精神”で戦っていたという。開幕前の下馬評では巨人が圧倒的有利だったということもあり、ナインは「とにかく足元を見て一戦一戦やっていくだけ。順位は意識しない」と“無欲”で試合に臨んでいたのだ。

 好不調の波はあったものの、このチャレンジ精神が功を奏して8月までは巨人、広島と優勝争いを展開した。

 しかし、勝負の9月に突入するとナインの気持ちに変化が生じる。球団関係者は「優勝を意識しすぎて力みが出るようになった。これで打線の勢いが影を潜めてしまった」と嘆く。9月の1試合平均得点は2点以下という落ち込みぶりだ。

 本紙評論家の得津高宏氏(67)も「今は全員がストライクを見逃してボールを振っている状態です。『自分が決める』『何とかしないといけない』という欲や焦りがあるのだろうが、そのせいでボールを線でなく点でとらえている。気持ちが空回りしているんですよ。これでは打てるはずがない。『詰まってもいいから反対方向に打つ』という冷静さが必要でしょう」と話した。

<検証2>複数のライバル球団の偵察部隊が疑問視しているのが「走り込み」だ。

 在京球団のスコアラーは「阪神は全体的にトレーニングで長い距離を走るメニューが少ないように感じた。短い距離のダッシュ系は結構、やっているんだけどね。いろいろな意味でのスタミナという面で大丈夫かなと思っていたけど、この影響が出ていた」と指摘する。

 今季は先発投手が好投しながらも中盤以降に突然、乱れるというケースが目立った。慌てて継投策に切り替えるものの、中継ぎ陣が勢いに乗った相手打線にのみ込まれてしまう。また、野手陣も疲労から精彩を欠く選手も出てきた。これらの問題には体力面の課題も大いに関係しており、その原因が「長距離走の不足」というのだ。

 チーム関係者も「2月のキャンプでもサブグラウンドのトラックで長い距離を走っている選手の姿が少なかった。室内練習場で短い距離を繰り返し走るというのがメーンだった。地道に時間をかけて長い時間を走ることも必要だったのではないか」と振り返る。

 昨年も9月以降に失速した反省を踏まえて首脳陣、スタッフは「1年間、戦い抜く体力」をつけるためのトレーニングメニューを作成したが、結果に結びつけることはできなかった。

<検証3>ライバル球団の首脳陣の間では「2008年のトラウマ説」が浮上している。 

 ある球団のコーチは「阪神は終盤の戦いを過剰に意識しすぎている。今年もシーズン序盤で戦力を温存して落とした試合がいくつかあった。確かに本当の勝負は9月なんだけど、序盤でも勝てる試合では戦力をつぎ込んでキッチリ勝たないといけない。序盤の勝利も終盤の勝利も同じ1勝。序盤の貯金が一つでも多い方が勝負どころで楽に戦えるのに…。やはり08年のことが気になっているのかな」と指摘する。

 08年は開幕から首位を快走。2位・巨人に最大13ゲーム差をつける独走状態だったものの、巨人の猛追で141試合目に初めて首位の座を明け渡し、そのままV逸という悪夢のシーズンだ。

 チーム関係者も「08年以降、どうしてもシーズン終盤の戦いを意識してしまうという傾向はある。それに終盤が大事、9月が大事と言い続けてきたことで逆に選手を硬くさせてしまったかもしれない」という。

 このトラウマを克服するためにはリーグ優勝するしかないのだが、今季も大失速でチャンスを逃してしまった。