元巨人球団代表兼GM清武英利氏(63)の解任をめぐる訴訟で、巨人の渡辺恒雄球団会長(88)が5日、初めて東京地裁に出廷した。清武氏とは“清武の乱”以来となる対面で、もう一人の当事者である桃井恒和球団社長(67)も出廷。法廷では清武氏側との激しい舌戦が繰り広げられたが、この裁判での巨人サイドの本気度はとにかくハンパではない。先月発表された球団の人事異動も、今回の裁判に関連したものだったという。

 注目の尋問は桃井社長、渡辺会長、最後に清武氏という順番。途中、興奮した渡辺会長が裁判長から「冷静に!」とたしなめられる一幕もあった。また清武氏が声を荒らげる場面もあり、約7時間に及んだ両者の直接対決はヒートアップした。

 解任の発端となったコーチ人事をめぐるやりとりについて、清武氏側は2011年10月に渡辺会長に人事案を説明し「分かった」と承認を得たとしているが、渡辺氏は「分かった」の意図について「(その発言は)早く帰ってもらいたくて言った」とし「承認はしていない」と主張。清武氏の「人事権は私にある」との言い分に対しては「重要事項は親会社の代表取締役の事前承認が必要」と、自らの人事承認が必要だったとした。

 今回の訴訟は次回9月18日に結審し、年内に判決が出る見込みだが、巨人&読売と清武氏の間にはこの他に数件の訴訟が残っている。そうした状況は、巨人の球団人事にも影響していた。

 巨人は先月27日に決算取締役会を開き、渡辺会長が最高顧問となり、桃井社長が代表権を持ったまま会長に。代表取締役社長には、読売新聞東京本社から久保博氏(64)を迎える人事が内定(正式決定は6月10日)したと発表した。実はこの人事には、桃井社長の「俺が清武と決着をつける」という強い意志が表れている。

 桃井社長は年齢や健康上の理由もあり、球団内では昨年中から退任説が根強くささやかれていた。それでも“続投”が決まったのは「桃井さんはああ見えて熱い人。“戦い”が片付くまで、身を引く気になれなかったのだろう」(球団関係者)という。

 11年11月11日に文科省で会見を開いた清武氏は、桃井社長を渡辺会長に反目する“盟友”だったとした。これに桃井社長は激怒。だが立場上、感情的な反論は許されなかった。そのときから身近な関係者には「裁判には僕が絶対に出る。そこで白黒つける」と意欲を見せていた。この日の直接対決は念願でもあった。

 証人尋問を終えた桃井社長はこの日、ためていた思いを一気に吐き出した。「(清武氏が記者会見を開くまでの)あの問題の1週間は私が一番濃密に清武君と一緒にいた。彼の記者会見の内容は私が一番よく分かっている。(清武氏は)コーチ人事の問題に最初に声を上げたのは桃井であると。(それに対して)僕も『そうじゃないんだ』ということをずっと言いたかったんだけど、今日ははっきり言わせてもらったので、自分としてはスッキリした」と晴れ晴れとした表情を見せた。

 そんな桃井社長について、清武氏は「若干の期待はあるし、嫌いな人ではないが、渡辺さんの目の前では、虚偽に近い答弁をするしかないのかと、とても残念に思った」とまだ淡い期待を持っているようだが…。桃井社長は今後、球団会長として実務面を久保新社長に任せつつ、清武氏との裁判闘争に注力することになる。