監督批判により二軍へ懲罰降格となったDeNA・中村紀洋内野手(40)が9日、神奈川・横須賀の二軍施設で練習に参加した。騒動後、初めて姿を見せた中村は「頑張るしかない」と表情を引き締めたが、そもそも今回の中村の主張は単なるわがままだったのか。近鉄時代に中村を指導した恩師でもある、ヤクルト・伊勢孝夫二軍チーフ打撃コーチ(69)が、懲罰降格騒動の核心に迫った。


 中村は7日のフェイスブック(FB)で「走者を場面によっては動かさず、打撃に集中させてほしいとコーチに相談させてもらいました。そうしたところ登録抹消だということでした」と明かした。その「場面」とは6日の巨人戦の8回無死一塁。DeNAは2―1と1点リードしており、一塁走者は俊足の梶谷。ここでベンチのサインは「グリーンライト」。つまり「走者自身の判断で行けると思った時に盗塁しろ」ということだ。


 伊勢コーチ:試合終盤でグリーンライトのサインが出ることは十分に考えられる。それはリードしているしていないにかかわらず、どうしても1点が欲しい時。どんなに打席に信頼できる打者がいたとしても、走者を動かす作戦はある。うしろの投手のことも考え、DeNAベンチは少しでも点差を広げておきたいと考えたのだろう。ただ、5点差で負けている時などは走者をためることが先決だから、グリーンライトはまず出ない。今回の状況的に、作戦としては問題ないサインだと思う。


 それでは「走者を動かさずに打撃に集中させて」というのは中村のわがままだったのか。


 伊勢コーチ:ノリは近鉄時代から知っているが、自分の都合だけで物を言うようなやつではない。チームが勝つために最善の策は何なのか。それを常に考えているし、ノリなりの考えがあったのだろう。無死一塁で走者が梶谷だったら、盗塁の危険を冒してノリのタイムリーを待つよりも、そのままノリが打って外野の間を抜いたら1点だ。無死二塁で一塁が空いたら、打点の多いノリは歩かされるかもしれない。そういうもろもろのことをあいつは考えながらプレーしている。だから、あながち的外れなことを言っているわけではないと思う。


 中村は近鉄時代、伊勢コーチにID野球の基礎を叩き込まれ、同コーチによれば「優等生やった」という。では、悪いのはDeNAベンチということなのか。


 伊勢コーチ:いや、悪いのはノリや。自分で「こうしたほうがベスト」だと思っても、やり方というものがある。コーチにグチを言うべきではなかったし、自分の腹に収めておくべきだった。言うのだとしたら、中畑監督に直接「ああいう場面はボクの長打に期待してくださいよ~」と冗談めかして言うのが一番だった。人を介すと言葉が屈折して伝わってしまうことがあるし、監督にとっても扱いにくい選手になってしまう。

 では今後、一軍復帰があったとしても中畑監督との関係を修復することは可能なのだろうか。そして中村が気をつけなければならないことは何なのか。


 伊勢コーチ:ノリは地獄を見ている男。その分、チームの役に立ちたい、試合に出たい、勝ちたいという思いは強いものを持っている。だが、あいつはその思いをバカ正直に口に出しすぎる。だから周りに「何とかかばってやりたい」という人が少ないのだろう。そうした人を周りに作ることが大事で、それはあいつの不徳の致すところ。だからこの前球場で会った時も「あまり余計なこと言わんと頑張れ」と言ったんだ。私がそばにいたら、ああいうふうにはさせなかった。


 中村は球団の垣根を越えた恩師の言葉をどう聞くか。信じてくれる師匠のためにも“トラブルメーカー”のレッテルを貼られたまま、バットを置くわけにはいかない。