全国に増殖中の鯉党だけでなく、アンチ巨人にとっても痛快だったのではないか。FAで巨人に移籍した大竹の人的補償で広島入りした一岡竜司投手(23)が、8日の巨人戦で古巣相手に1点差の7回から2番手で登板し、あいさつ代わりの快投を披露した。まずは先頭の坂本から自慢の直球で見逃し三振を奪うと、売り出し中の橋本もフォークで空振り三振に料理。続く実松も三ゴロに仕留め、Gベンチの戦意までそぐ完璧な投球だった。

「しっかり(巨人に傾きかけた)流れを断ち切ってくれた」とは野村監督の弁だが、それ以上に一岡を高く評価したのは巨人サイドだった。あるチームスタッフなどは「一岡は想像以上に成長したね。若いチームでポジションを与えられてのびのび投げている。広島は先発陣はもともと揃っているけど、余計に崩すのが厄介になった。今はうちのブルペンが苦しいだけに、ああいう姿を見ると『惜しいな』って思っちゃうな」と、やるせない表情を浮かべていたほどだ。

 当の一岡は「めちゃくちゃ緊張しました」と言いつつも「7回のマウンドに立つ前には(場内に巨人の球団歌の)『闘魂こめて』が流れてるなと…。そういう余裕はあったのかもしれませんね」と、ひょうひょうとしたもの。そんなアッケラカンとしたところこそ巨人側にとっては脅威のようで「表情を見ても何を考えているのかサッパリ分からず、とにかくつかみどころがない。『緊張している』なんて言っていても、いざマウンドに上がれば淡々としている。打者にとって、ああいうタイプは正直嫌だよ。そういうものがピッチングで、いい方向に出ているのかもしれない」と警戒を強めている。

 これで一岡は開幕から5試合連続無失点。この日の試合前には、原監督にあいさつすると「巨人のユニホームも似合っていたが、広島のユニホームも似合っているぞ」と激励されたそうだが、活躍ぶりを古巣関係者が喜んでくれるのは最初で最後になるかもしれない。