【大下剛史のキーマン診断(5)】巨人の投手陣が万全とはいえない今季は、広島にとって23年ぶりのリーグ優勝を達成するチャンスだ。ただし、条件は付く。ドラフト1位の大瀬良大地が先発ローテーションの一角を担うことが大前提だ。

 本来ならプロでの実績がないルーキーに頼るべきではない。しかし、この大瀬良だけは別格だ。キャンプ中盤のシート打撃で早々と150キロを叩き出した球威はもちろんのこと、九州共立大時代には、ふがいない投球をしたときなどに仲里監督から「寮まで走って帰れ!」と当たり前のように何十キロも走らされていたそうで、足も速ければ心肺機能も抜群。さらには家族思いで性格も申し分ない。あえて欠点を挙げるとすれば、勝負の世界で人柄の良さがマイナスにならないか…ということぐらいだ。

 現時点で首脳陣は前田、バリントン、野村に次ぐ「先発4番手」という高い評価をしている。余談になるが、楽天の星野監督も「大瀬良は15勝する」と話していた。あまりハードルを上げ過ぎてもかわいそうだが、大瀬良を含めた4本柱で60勝できれば、リーグ優勝だって夢物語ではない。

 3球団が1位指名で競合した昨秋のドラフトでは、高校時代から見守り続けてきた担当の田村スカウトが当たりクジを引いて話題になったが、このストーリーにはもっと深いエピソードがある。

 樟南と佐賀商の九州勢が決勝を戦った1994年夏の甲子園は、同点で迎えた9回表に4点を奪った佐賀商が優勝を飾った。その際に打ちひしがれる樟南のエース・福岡を笑顔で励ましていたのが正捕手だった田村スカウトで、そのシーンをテレビで見て感銘を受け、ドラフトでの獲得を指示したのが先代の松田耕平オーナーだった。

 田村スカウトは現役時代に目立った成績を残せなかったが、2桁勝利を計算できる大竹がFA移籍したオフに、2桁勝利が期待できる新人を引き当てた。「大瀬良」の名も、長い球団史に刻まれることを期待したい。(本紙専属評論家)