【外国人選手こぼれ話 広瀬真徳】いよいよ20日から東京ドームでマリナーズVSアスレチックスの日本開幕シリーズが始まる。日本でのメジャー戦は2000年の初開催以来、今回が5回目。マ軍とア軍の対戦は7年ぶり2度目となる。アメリカに赴かなければメジャーの試合を見られなかったころに比べ、現在は日本でも数年おきに本場の真剣勝負が生観戦できる。ファンにとってはうれしい限りなのだが、強豪チームが来日するたびに「これだけは何とかならないか」と思うメジャーのあしき慣習がある。球場内ベンチにおけるゴミ問題である。

 メジャーでは昔からリラックス、集中力を高めるため、試合中にガムをかんだり、ハイチュウやミント系タブレット等の菓子類を口に入れながらプレーする選手が多い。最近では日本の複数チームでもベンチ内での飲食が日常化している。野球は試合時間が2時間以上続く長丁場のスポーツ。ベンチ内の飲食行為自体は悪いとは思わない。だが、日米での決定的な差異は食べかすやゴミを「どこに捨てるか」ということ。日本では各選手がゴミ箱やポリ袋等に捨てるのが一般的な半面、メジャーでは各選手がベンチ床にまき散らしてしまうのである。

 テレビなどで映し出されたらメジャーチームの試合後のベンチを見てほしい。とにかく「汚い」のひと言に尽きる。ガムやあめ類の包装紙、使用済み紙コップに交じり、ドリンクの飲み残しや試合中に食するひまわりの種の殻、ツバ、タンなどが床一面を覆っている。その光景は日本人なら誰もが嫌悪感を抱くはずだが、メジャーではこれが日常的。置かれるゴミ箱は無用の産物と言わざるを得ず、誰も清潔に使おうとはしない。おそらくベンチを汚す行為を悪いとすら思っていないのである。

 実際、メジャー関係者や選手にこの愚行について聞いたことがある。答えはみな一様に「メジャーの文化だから」のひと言だった。特にツバやタン、ひまわりの種の殻を目前のベンチ床に飛ばす行為については「何が悪いことなのか。誰にも迷惑はかけていないだろ」と逆ギレする主力選手もいたほど。これでは何年たってもこの問題は改善されない。

 メジャーはここ数年、ファン拡大や選手のプレー環境改善のためビデオ判定やコリジョン(衝突)ルールなど、長年の伝統を覆す改革に挑み続けている。ならばあしき慣習であるベンチの劣悪な使用法もそろそろメジャー全体で考えるべきではないか。

「害を与えないからいい」ではない。これはエチケットであり、メジャー選手の品格が問われる。子供たちもメジャーを見る今、ベンチを汚す行為が「文化」というのであれば、せめて日本開催時ぐらいは異国の清潔感が保たれたベンチを見習ってもらいたい。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心に、ゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。