ハマに名伯楽が帰ってきた。沖縄・宜野湾キャンプで汗を流す若い選手に交じり、渋い存在感を放っているのが今季9年ぶりに復帰したDeNA・田代富雄打撃コーチ(64)だ。楽天、巨人と渡り歩いたベテラン指導者の目に、久々の古巣はどう映っているのか――。1998年以来、21年ぶりのペナント制覇と日本一を目指すベイのキーマンを直撃した。

 無骨な指導スタイルは変わらない。それでも巨人時代より練習中の表情が明るく見えたのは気のせいか。取材の日もティー打撃中の筒香と言葉を交わし、豪快に笑い声を響かせていたのが印象的だった。「まあ長くいたところだからな。選手はほとんど変わっちゃっているけど、スタッフはほぼ昔のまんま。そういう意味じゃ、やっぱり気は楽だよな」。練習が終わると、リラックスした笑みを浮かべながら取材に応じてくれた。

 ラミレス監督とも密に連携を取れているという田代コーチ。復帰して驚いたのは、親会社を含めた球団の空気の変化だったという。

「監督も気を使ってくれて声をかけてくれる。それにここは(南場)オーナーもね。先月のスタッフミーティング後に食事をご一緒したんだけれど、すごい気さくな方でね。確か『お帰りなさい』と声をかけてもらったのかな。やっぱり、うれしい言葉だよなあ。あまりこういうこと言うガラじゃねえんだけど『球団のために…』って気持ちになるよな。DeNAっていいなあって感じたよ」

 かつての教え子で残っているのは数人。様変わりした選手たちも輝いて見える。

「いい、これがみんないい。細川、楠本…他にも魅力的な選手が多いんだよ。投手もいい素材ばっかり。みんな若いし、球は速いしさ。去年も外から見て思っていたことだけど、近くで見てもいいチームになったよなあと思うよ」

 9年前は期待の若手の一人だった筒香は今や絶対的なチームの主砲に成長した。師弟コンビ復活が注目されるが「ゴウの性格からすれば、もう任せておけば大丈夫。あいつの姿を見ていると、みんなを引っ張っていくんだという思いを感じるよ。言葉もな。だから何も心配ない」と全幅の信頼を寄せる。その上で自身の役目は「一軍選手が試合で100%に近い力を出せるように助けるのが仕事」と位置付ける。

 すっかり古巣の空気になじんでいる田代コーチ。ただ巨人に残してきた愛弟子が「寂しい」と話していたことを伝えると、目を細めてこう話した。「岡本な、うれしいよ。なんだかんだ一番心配したからなあ。やっぱり巨人は厳しい球団だからさ。去年も春先に結果が出なかったら見切られちゃう可能性もあったしな。正直、よう頑張ったよ。少しでもあいつの力になれたのか、なったんだったらうれしいな」

 まるで孫の近況を伝え聞いた祖父の顔。それでも17日の練習試合(セルラー)で顔を合わせた際にはあえて突き放したという。「あいさつに来てくれたのはうれしいんだよ。だけど『もう、これっきりにしてくれ』と言ったんだ。これからは敵同士。うれしいけど、真剣勝負だからな」 楽天、巨人にしっかりと足跡を残し、帰ってきた古巣で目指すのは21年ぶりのリーグ制覇と日本一。「十分あると思うよ」と深くうなずいた名伯楽の手腕に注目だ。