昨季17年ぶりの最下位に沈んだ阪神では新たに矢野燿大監督(50)が誕生した。「ぶち破れ! オレがヤル!」をスローガンに巻き返しを目指す新指揮官に本紙はインタビューを敢行。就任1年目の今季に向けた覚悟や決意はもちろん、異例ともいえるファンへの“お願い”まで飛び出した。

 ――就任して3か月がたった

 矢野監督 本当忙しかったね。体というより頭がね。特に最初のころは考えることが多過ぎて思考が停止する、フリーズする、「何やったらいいんやろ?」って感じで時間が過ぎていった感じかな。

 ――改めて理想の監督像は

 矢野監督 もちろん星野仙一さん、野村克也さん、今までお世話になった監督の教えは染みこんでいる。野村さんのおかげで3割打たせてもらったし、考えて野球やるということを教わった。だから選手には「俺も野村さんに言われてこうやったで」「俺もこういう結果が出たからトライしてみたらどうや」と言うこともある。また、自分の言葉で言っているようで星野さんの言葉が口から出ていることもあったりするよ。

 ――昨年はスポーツ界で指導法が問題になったが、時代の違いを感じるか

 矢野監督 俺が偉そうに言うことではないけど、古くていいこともいっぱいある。新しいものがすべていいわけではないというのが大前提。昔の根性とか、気合とか好きなのよ。でも、それだけではやっぱり難しい部分もある。バットを1000本振れとなったとき、1000本振ることが大事になるけど、その先にはうまくなるためというのがあるべき。ただ1000本振るのも意味はあるけど、そこに「こうなるために俺は振るんだ」という思いがあれば疲れ方も違う。選手にもそういうアプローチでやっていけたらいいかな。

 ――就任以来、ファンを喜ばせようとナインに言っているが、その考えのきっかけは

 矢野監督 一番は2003年かな。優勝パレードをやったときにめちゃ感動して。雨降っているなかでのパレードで行く前は「うわー、雨のなかでやりたくないな…」という気持もあったんだけど行ったらすごい人でさ。日本一になれずにリーグ優勝だけだったのに、ファンの人があれだけ集まって「ありがとう」と言ってくれたりとか、涙を流して喜んでくれる人がいたりとか…。これが優勝かと思って。そこから俺のモチベーションとして日本一になってパレードというのはずっと持っていた。

 ――グラウンドで喜怒哀楽を出していくことも要望している

 矢野監督 現役時代、「JFK」のジェフ・ウィリアムズが7回を抑えたときに自然にガッツポーズが出たときがあった。そしたらジェフから「矢野、うれしかったよ。ああやって矢野が喜んでくれるのは俺もすごいうれしかったし、燃えるよ」と言われた。俺の中では7回を抑えただけで喜んではいかんと思っていた。ゲームセットまで気を抜いたらあかんと。でも、投手にそうやって思ってもらえるんなら、何も我慢することないんだなと。ただ、切り替えは大事。攻撃のときに自分でタイムリー打って喜んだまま守りにいったら次の回にごろっとやられてしまう。ポンとスイッチを入れ替えられるならば、喜怒哀楽を出したほうが見ているほうはおもろいと思うから。

 ――阪神ファンは熱狂的である半面、ヤジも厳しい。プレッシャーになる部分もあるが…

 矢野監督 応援してもらえる分、期待を裏切ったときの怖さというのはやっぱりある。でも、結局そこをどう捉えるかは自分自身。俺もトレードで来た時にすごく悔しい思いをした。(トレード相手の)久慈と関川がすごく頑張ってて俺と大豊さんが全然ダメで…。神宮の帰りにヤジられるわけよ。それで心折れそうになる。でもそこから「くそおー!」となる。「見返してやりたい」とかさ。受け取り方次第で逆のパワーに変えられるんじゃないかなと思う。「なんで俺だけやねん」と思うとしんどくなるから。俺も今年(監督として)当事者になっているかもしれない。今はこんな冷静に言っているけど、その場その場でこんなに冷静にいられるかどうか100%の自信はないんだけど(苦笑)。

 ――昨年本拠地であまり勝てなかったが、今年は甲子園でどう勝つ

 矢野監督 教えてくれよ(笑い)。ただ、ファンの人にお願いしたいのは、まだ結果が出てない間は応援してほしいなって。打たれた後なら、俺らボロカスに言われようが仕方ないと思うんやけど、投げる前はやっぱり応援してやってほしい。昔、久保田の時もお願いしたんやけど…。やっぱり応援しているチームの選手が行くんやから…。ボール、ボールになったら「あー」ってなるじゃん。でも、その球場のムードは選手たちも感じる。だからファンの人もしんどいけどちょっと我慢してくれたりするほうが結果的にチームのためとか選手のためになるのかなって。

 ――確かに甲子園では藤浪晋太郎投手(24)がボール先行になると異様な雰囲気になる…

 矢野監督 晋太郎はそういう星の下に生まれているから。だからさっきも言ったようにそれをマイナスに捉えるか「こんだけ俺のこと応援してくれてるんだ」って捉えるのか。そこは晋太郎次第。でも、こちらの思いとしては「頑張れ!」と言ってくれたほうがいい。札幌ドームとかマツダでフルカウントになったら「頑張れー」ってあるじゃん。ちょっと阪神には合わないんかもしれんけど、そういうムードが出てくるとありがたいな。

 ――2019年はどんな年にしたいか
 矢野監督 そらいい年にしたい。ファンの人を喜ばせるだけじゃなくて、俺らも思いっきり喜びたい。お互いにとって喜び合えるようなそういうシーズンにしたいなと思っているよ。