巨人のドラフト戦略が異例の大転換だ。山口寿一オーナー(61)は10日、球団特別顧問で前監督の原辰徳氏(60)に来季の監督就任を正式要請。受諾の意向を得られたことで、球団初の第3次政権発足はいよいよ秒読み段階に入った。正式な就任発表は全日程終了後となるが、原氏はすでに25日のドラフト会議への出席が内定。“全権監督”の誕生を前に球団内は揺れ動いている。

 劇的な勝利でのCS進出決定から一夜明けたこの日、東京でも事態が大きく動いた。午後、大手町の球団事務所で山口オーナーが報道陣の前に立ち、「原さんに会って来季の監督を要請しました。だいたい方向は固まったと思っています」と口を開いた。

 続けて原氏も報道陣に対応。慎重に言葉を選びつつも「前向きに考えますと申し上げた」と受諾の意向を示したことで、2015年以来、4年ぶりの監督復帰が決定的となった。ただチームの戦いは現在も続いている。山口オーナーは「今は高橋監督とチームを全力で支えたい」とし、正式な監督就任発表は全日程終了後となる見通しだ。

 とはいえ新体制への移行は粛々と進める。今後、仮にチームが日本シリーズに進出しても、今月25日のドラフト会議には原氏が球団の“顔”として出席することが決まった。山口オーナーは「原さんは現在、球団特別顧問という立場にある。その立場でドラフト会議など来季の体制づくりに関して携わっていってもらおうと考えている」とした。

 原氏も「来季という部分で、スタートはドラフトかなと僕はいつも感じている。非常に大事なものだと思う」と応じると、自身がくじ引き役を務めるかについても「どうでしょうか?」とニヤリとし、否定しなかった。

 ドラフト戦略策定を含むチーム編成業務の責任者である鹿取GMは更迭必至の情勢。GM制度自体の廃止も検討されている。山口オーナーは「フロントとチームが一体となって立て直しが必要。原さんにはそうした役割を期待している」とし、編成、運営面における“全権”を委ねる構えだ。当然、2週間後に迫ったドラフト会議の指名方針は“原カラー”に塗り替えられることになる。

 石井球団社長が窓口となり、スカウト陣にはすでに“新監督の意向”が伝えられている。「ビックリしましたよ。突然、根尾昂内野手(大阪桐蔭)の名前が挙がってきたので…」。スカウトの一人は困惑を隠せず、内情を明かした。「最近まで幹部の人たちは『投手を獲れ』と言っていると聞いていましたし、1位は吉田輝星投手(金足農)でいくものだと思っていました。それがひっくり返ったのは、やはり新監督の意向なんでしょう」

 直近の会議でも、議論をリードしたのは鹿取GMでも岡崎スカウト部長でもなく“素人”の石井社長だったという。「失礼ですが、野球を深くは知らないはずの人にしては、よくもまあ熱心に勉強しているなと。『なるほど、こんな見方もあるのか』と思わずうなってしまう発言をされていました。今思えば、あれも原さんの知恵を拝借していたのかもしれませんね」(前出のスカウト)

 吉田の知名度には及ばなくとも、根尾も今年の甲子園を沸かせたスターの一人。“ポスト坂本勇候補”として、岡崎スカウト部長以下、スカウト陣の評価はもともと高かった。ただ1位指名が投手から野手へ転換となれば、2位以下の指名方針も練り直しを迫られる。

 復帰初仕事に腕をぶす原氏は巨人の未来予想図をどう描くのか。スカウト陣は背筋を伸ばしてカリスマ指揮官の帰還を待っている。