金足農の準Vに感動「全額無料」実施した居酒屋・薄利多賣半兵ヱの決算

2018年08月24日 16時30分

当初は準優勝ならドリンク半額だったが、金足農ナインに感激した村上社長は全額無料を決断

「ウチの会社に就職してもらいたい」――。甲子園で準優勝した金足農のフィーバーが連日報道されているが、とりわけ痛快だったのが地元の秋田市に本社を置く居酒屋全国チェーンが実施した「全店全額無料」という冗談のような企画だった。秋田市出身の社長は本紙の取材に、企画の意図と反響を語った。

 決勝戦のあった21日の夜、SNSがざわめいた。「全額無料の居酒屋がある」。冗談だろ? いや本当らしいぞ――。確認すると、全国に60店舗を展開する居酒屋チェーン「薄利多賣半兵ヱ」が直営店50店で本当に実施した企画であることがわかった。

 活躍した金足農だけでなく、応援してくれた人たちへの感謝が込められていた。1日限りの企画であるものの、採算“超”度外視の行動は飲食業界でも極めて異例だった。

 経営するドリームリンク社(秋田市山王)の村上雅彦社長(55)も秋田市出身という縁がある。この企画の背景を語った。

「私は出身校こそ秋田市立高校(現秋田中央高校)。金農に知人はいないけど、どうしても応援したくて甲子園の決勝に行きました」

 このときすでに「準優勝でドリンク半額。優勝でドリンクとフード半額」の実施を決めていたが、その考えを変えたのが関西の人たちの声だった。

「伊丹空港に着いても、甲子園のスタンドでも、周囲から聞こえてくるのは『金足農を応援している』という声。甲子園にも店のお客さんがいるはず。秋田を応援してくれる方に感謝を申し上げたい。そこで全額無料を決意しました」

 試合後の午後4時過ぎ、役員らと相談した社長は損失覚悟で全額無料を即決。掲示物を作って全店舗に通達を出した。開店の5時までにそれがすべて間に合ったというスピード感に決意の強さが表れている。

 突然の指示で人手が足りず、在庫が空になるなど、現場スタッフはかなり苦労した。「本当に払わなくていいの?」と客が戸惑う場面もあったという。

 気になるのは、本来であれば店と会社の売り上げになるはずだった金額だ。「概算ですが、今回は3000人前後の来客があって、売り上げ(相当額)は1000万~1200万円」。1日で、1000万円をポーンとおごったことになる。すごい。太っ腹過ぎる。しかし正直、経営者として痛手ではないのだろうか。

「利益を地域社会に使うという理念があり、東日本大震災と熊本の地震の時も東北被災3県に1500万、熊本県に200万円を寄付した。いいんですよ。金農の選手たちのおかげで秋田県の知名度が上がった。こんな爽快なことはないんですから」

 今では金足農を応援するため、店で出す商品の開発も考えている。「『雑草軍団』にちなんで青汁のドリンクや、選手のご実家のお米などを使わせていただきたい」

 吉田輝星投手の進路にも注目が集まるが、社長は他のナインの去就も見守っている。秋田県の「就職希望企業ランキング」で今年5月に5位にランクインした同社はナインの就職を歓迎する。「彼らがうちの会社に就職してくれたら、地域社会への貢献という点でこれほど心強いことはない」とラブコールを送った。

 同社では全国の客だけでなく、秋田県への貢献も課題とする。「秋田といえばお酒だけど、秋田の酒蔵はここ12年で16も減っている。最近、後継者のいなかった鹿角市の酒蔵を買収した。日本酒『千歳盛』の蔵です。県知事と『秋田にはどんな酒でもあるのにウイスキーだけはない』という話になったことがあり、今はウイスキー造りにも取り組んでいる」

 さて、全額無料は経営的には損失と思われるが、商業的な効果は確実にあった。各地からお礼のメールや手紙が会社に殺到している。「初めてお店に行きました。次はきちんと御代を払ってうかがいます」「当日は行けませんでしたが、感動したので友達を大勢連れて行きます」。莫大な広告効果があったと考えてよいだろう。スタッフからも「やってよかった」と反応がある。

「秋田県勢が甲子園で優勝したら? そのときはまた同じことをしますよ」と社長は話す。同県から103年ぶりの決勝進出を遂げた金農。来年以降も秋田勢の活躍が願われる。