【高校野球】184球熱投!済美・山口直哉が「安楽の772球」から学んだエース道

2018年08月13日 16時30分

延長13回を投げ抜いた山口直

 第100回全国高校野球選手権大会は12日、2回戦4試合が行われ、第3試合は済美(愛媛)が星稜(石川)に延長13回タイブレークの末、13―11で逆転サヨナラ勝ちした。高校野球史に刻まれるであろう大激闘。済美を勝利に導いたのは鉄腕エースだった。アクシデントに見舞われながらも、184球を一人で投げ抜いた山口直哉(3年)には「安楽の772球」から学んだ“済美エース道”があった。

 数々の激闘が繰り広げられてきた甲子園で、またミラクルが起こった。1―7と6点を追う8回の済美の攻撃。ベンチで中矢監督は言った。「満塁弾と3ラン打ったら逆転やぞ!」。不思議と“言霊”を感じたというナインは、ここから奇跡を演じた。

 9番・政吉(3年)の公式戦初本塁打となる3ランなど、打者11人の猛攻でこの回一挙8得点。9―7と試合を引っくり返した。9回に9―9の同点とされて延長に突入した13回は、タイブレーク制で先攻の星稜に2点を勝ち越されながら、矢野(3年)の史上初となる逆転サヨナラ満塁弾で死闘に終止符を打った。

 ヒーローは最後まであきらめなかった済美ナイン全員だが、奇跡を呼び込んだのはエース・山口直の184球の熱投だった。

 県大会から誰にもマウンドを譲らなかった背番号1は、試合後「最後まで自分が投げるんだという気持ちだった」と淡々と振り返った。夏の県大会直前の6月、済美伝統の「追い込み」と呼ばれる地獄の猛練習。真冬に着る厚手のジャンパーを羽織って3時間超の練習をこなす仲間を横目に、山口直は3枚のジャンパーを重ね着して耐え抜いた。「アイツが打たれて負けたら全員が納得する。そんなエースです」と仲間が認める努力で、無尽蔵のスタミナと強い精神力を養ってきた。

 この日、ベンチが凍りつくシーンがあった。8回の攻撃で山口直が右ヒザ付近に受けた死球。普段は弱音を吐かず、表情に出さない右腕がベンチに戻ってきて激痛に顔をゆがめた。それでも交代の意思は決して示さなかった。

 山口直には「済美のエース」としての確固たる美学がある。2013年のセンバツで772球を投げて準優勝に導いた安楽(現楽天)の姿が目に焼きついている。当時2番手投手だった兄を応援するため、山口直はアルプス席で済美の雄姿を見届けた。そして、常にマウンドに立ち続けた安楽の姿から「済美のエース道」を胸に刻み付けたという。

 山口直は今でもその時の記憶を仲間に語ることがある。試合後、クールな右腕に代わって「あれが『済美の背番号1』。『ザ・エース』です」と胸を張ったのは、仲間たちだった。

「安楽の772球」を巡っては当時、国内だけではなく米国などでも「投手の酷使」という観点で批判を浴びることもあった。そして「甲子園では一人エースでは勝ち進めない」などという風潮が広がっていることもあり、今後も山口直が一人で投げ続けることにでもなれば、再び議論を呼ぶことになるかもしれない。

 だが…。山口直にとっては、これが安楽から学んだ「済美エース魂」。あれから5年、自身が追い求めた理想の姿でチームを激勝に導いた。