【ズームアップ甲子園】東北の怪物が“名刺代わり”に聖地初戦でインパクトを残した。第100回全国高校野球選手権大会は8日、甲子園球場で1回戦4試合を行い、11年ぶり6回目出場の金足農(秋田)が5―1で鹿児島実(鹿児島)を下して2回戦進出。エース吉田輝星投手(3年)が9安打されながらも要所を締めて1点に抑え、14三振を奪う完投勝利を飾った。今秋のドラフト1位候補としてプロ球界から熱視線を注がれる最速150キロ右腕の“素顔”とは――。

 毎回走者を背負いながらも最後まで慌てなかった。8回に1点を失ったが、吉田は集中力を切らさず冷静に反撃の芽を摘んだ。

 県大会でチーム打率3割6分2厘の強打を誇った鹿児島実に対し、序盤はチェンジアップやスプリットなどの変化球を織り交ぜながらカウントを稼いだ。しかし、イニングを重ねるごとに「相手に低めの変化球を見極められていたところがあったので、そこからギアを上げていってストレートを力いっぱい投げた」。

 この日最速148キロの直球を軸に、終わってみれば14奪三振をマーク。9安打を浴びながら最少失点に抑え、157球の力投でチームを23年ぶりの甲子園勝利に導いた。「1点は取られたけど、自分たちらしい野球ができたと思います」と振り返りつつも、自身の投球については「30点ぐらいです」と辛口だ。

 謙虚な性格ながら、妥協なき精神も持ち合わせる。スタミナ強化に励むため日々、チーム練習後は率先して居残り、黙々とグラウンドでランニングを繰り返す。コーチの一人は「こっちが『もういいかげんにやめろ』と言うまで、延々とひたすら走り続けている」と打ち明け、同僚たちも「朝練で6時集合の時も、必ず一番早く来ていて夏でもウインドブレーカーを着ながら黙々と1人で走り込みをしている」と口を揃える。

「(吉田の)憧れの投手は楽天の則本(昂大)さん。暇があると動画サイトを見て投球フォームをチェックしている。ストレートはもちろん、スライダーやカーブ、スプリットなど質の高い変化球も5~6種類は投げられます。それにアイツがすごいのは、試合中にいい意味で『力を落とせる』こと。完投を意識しているからスタミナが切れそうだったら、打たれてもいい場面ではわざと力を抜いたりもする。ペース配分の仕方も、もうプロ並みです」(ある選手)

 おちゃめな一面もある。チームが宿舎に泊まる試合前夜は就寝のタイミングで必ずベンチ入りメンバーの工藤(2年)を自室に呼び寄せ、ノックとともに「おやすみ」とひと言かけてもらう。「昔からウチの先輩エースたちがあるチームメートを指名し、登板前にやっている勝利の伝統儀式。このルーティンを吉田も守っているんです」と前出の選手。チーム内の信頼も厚く、主将ではないが「精神的支柱」となっているという。1試合平均11奪三振を超える驚異の右腕が今夏旋風を巻き起こしそうな気配だ。