エースがバットで白星を手繰り寄せた。巨人は18日のDeNA戦(東京ドーム)で6―3の逆転勝ち。ヒーローは本業で6回3失点ながら同点の5回に決勝のプロ初本塁打を放ち、今季5勝目をマークした菅野智之投手(28)だ。弾丸ライナーの一撃には観戦した長嶋茂雄終身名誉監督(82)もビックリ。実は打撃評価が高い右腕の起用法を巡っては過去に幻の“打順昇格案”が浮上したこともあった。

 立ち上がりは不穏だった。初回はいきなり一死満塁の大ピンチ。ここは無失点で切り抜けたが、菅野は自己最長タイの30イニング無失点まであと一死と迫った3回二死一塁で、宿敵筒香に2ランを被弾した。主砲の一発に沸くDeNAベンチを横目に、巨人側には嫌なムードが漂う。

 だが、この日は菅野がバットで空気を変えた。3回先頭の長野が安打で出塁すると、高橋由伸監督は続く8番小林に犠打を指示。「(坂本)勇人に回して、まずはなんとか1点を」(村田ヘッド兼バッテリーコーチ)との狙いだったが、菅野が中前打を放って一、三塁と好機が広がり、ここで坂本勇が左翼席へ逆転の5号3ランを放り込み、試合をひっくり返した。その後も“投手・菅野”はピリッとせず5回には梶谷に同点弾を浴びた。しかし、再びエースのバットが火を噴く。先頭で迎えた第2打席。カウント0―2からの3球目、石田のスライダーを強振し、ライナーで左翼席へはじき返した。

 プロ入り6年目、320打席目に放った1号本塁打は、貴重な勝ち越し弾。これには観戦した長嶋終身名誉監督も「驚いたねえ」と目を丸くし、テレビ解説した伯父の原前監督を「多少、私のDNAも入っているのでしょう。ナイスバッティングでした」とうならせるひと振りだった。

 はにかみながらダイヤモンドを一周した菅野は「まぐれだと思う。まぐれが続くように頑張ります」と謙虚に振り返ったが、由伸監督が「練習ではいい打撃をしているので、いつかは打つと思っていた」としたように、打撃の評価は以前から高かった。

 2016年には打率2割2分2厘を記録し、女房役の小林の打率(2割4厘)を上回った。DeNA・ラミレス監督はこの日も8番に投手の石田を組み入れたが、巨人でも同様に「智之に8番を打たせては」との意見が真面目に議論されたこともある。さすがに採用されることはなかったが、菅野本人はオフに「初本塁打、3割、15安打」の目標を掲げるなど、打撃にも高い意識で取り組んできた。

 とはいえ初本塁打の喜びもそこそこに菅野が口にしたのは投手としてのプライドと反省だ。「よく粘ったといえば粘ったのかもしれない。ただ目指すところはそこじゃない」。次戦は“刀一本”で相手をねじ伏せる。