【山口敏太郎オカルト評論家のUMA図鑑#541】「ビッグフット」といえば米国を代表するUMAとして名高く、英国で目撃された類似の生物に「UKビッグフット」と名が冠されるほど世界的にも有名だ。そんなビッグフットであるが、亜種ではないかとされる生物が発見されていたというのである。
場所はコロラド州。動物学者ジェフ・サンダース博士はその日、レイク郡のエルバート山を登山していた。エルバート山は、標高4401メートルを誇るロッキー山脈の最高峰だ。彼が山頂へ到達したその時、奇妙な生き物を目撃することとなった。その生物は霊長類であると思われ、体長およそ90センチメートルで顔が人間っぽく、一見するとチンパンジーのようであった。しかし注目すべきはその指で、人間やチンパンジーと比べると3倍近くも長いのだ。その謎の生物は、大きな石をひっくり返して虫を食べようとしていたという。
サンダース氏は木に隠れて様子見をしていたが、それをその生物が察したためか両手をたたき合わせ始め、その音は周囲に反響していった。彼は恐怖を覚えたものの、学者というプライドであろうか、「この機会を逃したら二度と発見できない」と思い覚悟を決めたのだという。
数分たち、その生物の仲間であろう同じような生物が5頭集まってきた。彼は、その生物を観察して顔や骨格、そして特徴などがビッグフットに似ていることに気付き、後に長い指という特徴に則り、「ビッグフィンガー」と名付けたという。
彼はビッグフットの情報に精通しており、このビッグフィンガーも同等の知能を持っていると推測した。その生物たちとの交友を図ろうと考え、持参していたリンゴを取り出して渡そうとしたのだ。はじめは警戒していたビッグフィンガーたちであったが、彼が穏やかに声をかけ続けた末に1頭が近づき、リンゴをつかみ取って行った。その後も、彼の持参した食べ物のいくつかを与えると徐々にその生物たちは警戒を緩めていき、ある程度のコミュニケーションを図ることができたというのである。
未知の生物とのなんとも心温まるような体験だ。しかし、断言してしまうと、これは実話ではない。この話の出どころは「ウィークリー・ワールド・ニュース」という、知る人ぞ知るオカルトゴシップ情報を多数扱っているタブロイド紙だ。すなわち、このビッグフィンガーは、ビッグフットにあやかった明らかな創作なのである。ビッグフットの目撃多発地であるロッキー山脈を発見場所としているのも意図してのことだろう。
この記事では、サンダース氏にインタビューを行う形で掲載され、最後にはビッグフィンガーとハイタッチした時の回想を右腕に包帯を巻いた状態で答えているという露骨なオチで締めくくられているのだ。
それにしても、ビッグフットの対比とはいえ、手が大きいというのではなく指が大きい(長い)としたのは独創的だ。超絶技巧の作曲家で知られるフランツ・リストは、中指12センチメートル、親指7センチメートルもの長い指であったことは有名であるが、それをはるかに凌駕した長さである。
余談だが、現代ではあまり使用されない意味ではあるものの、「big」「finger」にはそれぞれ「大げさな」「タレコミ」といった意味が含まれている。今後「ビッグフィンガー」という言葉が、慣用句やスラングと化す日が来るのだろうか。