ポテトチップスは「食べる」だけじゃなく「しゃべって」も飽きがこない!「ポテトチップスと日本人」(朝日新書)を上梓したライター・稲田豊史氏(48)が流通ウォッチャーの渡辺広明氏とコンビニを軸にスナック談議。あなたのお気に入りのポテチをつまみながらサクサクッとお楽しみください。

稲田氏の新刊は帯もポテチ風
稲田氏の新刊は帯もポテチ風

 渡辺広明(以下渡辺)僕がローソンに入社したのは1990年。そのときに「絶対品切れさせちゃいけない」と言われてたのが「わさビーフ」(山芳製菓=87年発売)だった。92年発売の「ピザポテト」もたくさん売った記憶がありますね。

 稲田豊史(以下稲田)本に詳しく書きましたが、僕を含めた団塊ジュニアってポテチをもっとも食べ続けてきた世代なんです。「三つ子の魂百まで」という言葉もあるように10代で「わさビーフ」を食べていた僕たちがオジサンになった今もまだ食べている(笑い)。

 渡辺 駄菓子と一緒だよね。稲田さんより8歳上の僕はコンビニ店員としてポテチは「食べた」というより「売った」記憶のほうが強い。スナックといえば「かっぱえびせん」(カルビー)か「カール」(明治)のイメージがあって、実は日本でポテトチップスの量産化に成功した湖池屋の存在を知ったのも大学進学で上京してからだった。

 稲田 地元が浜松なので仕方がないかなと思います。62年、日本で最初に「のり塩」味のポテトチップスを製造した湖池屋のオートフライヤー導入による量産化は67年でしたが、当時の湖池屋は東日本中心の流通。全国流通を果たしたのは75年にポテトチップス市場に参入したカルビーですから。愛知県出身の僕も子供の頃にポテトチップスといえばカルビーで、湖池屋は「カラムーチョ」(84年発売)のイメージでした。国内でも東西で結構認識に違いがありますね。

 渡辺 ポテトチップスってスナック菓子なんだけど同時に生鮮食品でもあるというのは驚きでしたよ。

 稲田 そもそもジャガイモは季節商品だから安定確保するのも一筋縄ではいきません。そして油で揚げているので常に酸化との闘いでもある。ちなみに今や定番の袋、アルミ蒸着フィルムを業界で初めて導入したのもカルビーです。

ポテトチップスの歴史
ポテトチップスの歴史

 渡辺 カルビーといえば「コンソメパンチ」(78年発売)が超定番じゃないですか。コンソメってフランス料理が発祥だから海外にもあるのかと思いきや、出汁文化と親和性の高い日本人ならではの発明だったというのを知って、僕は“新インバウンド商品”として外国人にアピールするべきだと思ったんです。抹茶を使った高級スイーツをわざわざ新規開発しなくたって、身近に買える商品で、日本らしさが詰まってるじゃないですか!

 稲田 それは名案かもしれません。クオリティーだけで言えば外国にもおいしいお菓子っていっぱいあるんですよ。でも日本のお菓子がすごいのは「安価なのに質が高い」ところ。たった100円、200円のポテチにすごい技術力と工夫が詰まっている。もともと外国の料理を発祥とするようなフレーバー、たとえばコンソメ味も(「ピザポテト」の)ピザ味も(「カラムーチョ」の)チリ味も、日本人の口に合うように日本独自のアレンジが施されていますしね。「ピザポテト」なんて目指したのがただのチーズ味ではなく、1980年代にあこがれの象徴だった宅配ピザの味を目指して生まれた。こういう細かいこだわりも日本人っぽいんですよね。

 渡辺 そう! 僕は86年にスズキの軽自動車「アルト」に乗っていたんですが、それに回転ドライバーズシートという機能があって…(長い上に脱線したので以下略)。

カルビーのポテチの袋の裏のQRコードを読み込むと….
カルビーのポテチの袋の裏のQRコードを読み込むと….

 稲田 オシャレといえば成型ポテトチップスに触れないといけません。76年発売の「チップスター」(ヤマザキビスケット)と94年に日本上陸を果たした「プリングルズ」。渡辺さんはどんなイメージをお持ちですか?

 渡辺「プリングルズ」のサワークリーム&オニオンというフレーバーが果たした役割は大きいよね。サワークリーム&オニオンが緑色の筒と結びついているし、形が均一だからお皿に盛ったときにキレイという利点もあった。

 稲田 わかります。お皿にザーッとやりたくなる(笑い)。コンビニとともに進化してきたポテチですが、2010年代以降はジャンクとヘルシーの2極化が進んでいます。

カルビーのポテトチップスは使用したジャガイモの産地を確認できる
カルビーのポテトチップスは使用したジャガイモの産地を確認できる

 渡辺 これはポテチだけに限った話じゃないけど、小売りの力が強くなった結果、プライベートブランド(PB)が増えすぎたことは残念に思っています(※一般にNBよりもPBのほうが利益率が大きい)。まず見た目が均一化してしまって売り場の見た目が面白くない。それにフレーバーの組み合わせありきで新商品の発売だけは多いが定番として生き残っているブランドが育ってきていない気がするんですよ。

 稲田 鋭いご指摘だと思います。年代別に好まれるフレーバーは異なりますが、ナチュラル系もガッツリ濃い系も別々の理由で売り上げを伸ばしている。定番を軸にあらゆる世代に愛されるポテトチップスは現代日本人の国民食だというのが僕の認識です。

 ☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」レギュラーコメンテーター。Tokyofm「ビジトピ」パーソナリティー。

 ☆いなだ・とよし 1974年生まれ、愛知県出身。ライター、コラムニスト、編集者。横浜国大卒業後、ギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ)入社。キネマ旬報社でDVD業界誌の編集長。書籍編集者を経て2013年独立。著書に「映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形」(光文社新書)、「ぼくたちの離婚」(角川新書)がある。