【米フロリダ23日(日本時間24日)発】衰退に歯止めをかけた「赤い彗星」のプライド――。第5回WBCは日本のみならず、各国で大きな盛り上がりを見せた。出場各国がメジャーの一流選手を数多く招集し、見どころ満載のハイレベルな戦いだったこともファンの関心を集めた。

 大会の権威に比例して、参加する選手の本気度も増す。試合になれば、スプリングトレーニングの延長線上という認識のメジャーリーガーは少なかったように映る。意地と意地のぶつかり合いが、見る者を魅了した。

 かつて「野球王国」と呼ばれたキューバ代表の4強入りもセンセーショナルだった。2006年の第1回大会こそ、日本と決勝で激闘を演じて準優勝に輝いたが、それ以降は3大会連続で2次ラウンド敗退。東京五輪では予選敗退を喫し、本大会出場すら逃す屈辱も味わった。いまだ米国との政治問題がクリアにならず、国交正常化に向けたプロセスが不透明な状況。夢と名声を追いかける有望選手の相次ぐ亡命などもあり、国際大会での衰退が続いていた。

 現有戦力の高齢化などもあり、苦戦を予想する声は多かった。ズルズルと衰退の一途をたどる代表、疲弊する母国…。国技である野球が国威発揚につながることを願ってキューバ代表ナインは今大会に臨んでいた。「あの赤いユニホームは特別。何物にも代えがたく、赤いユニホームを着ることが一番なんだ」。19歳で国際大会デビューを果たし、キューバの絶対的主力であるソフトバンクのリバン・モイネロ投手(27)は、かつて代表への思いをそう明かしていた。

 キューバ野球の未来を案じる中でのWBC。モイネロは昨秋、大きな転換点を迎える可能性を秘めていた。ソフトバンクからの先発転向の打診。絶対的セットアッパーとして「8回」を担ってきたが、千賀(メッツ)が抜けた先発投手事情や、まだ若く適性十分の左腕への期待からだった。ただ、モイネロは「春にWBCがある。代表での自分の役割はすでに決まっている。このタイミングで転向はできない」と、チームに理解を求めた。21年オフにメジャー移籍も囁かれる中で、ソフトバンクと3年契約を締結して残留。「キューバの怪物」と呼ばれ、メジャー球団が動向を注視していた中で長期残留を選択した左腕に、ソフトバンクは敬意を表し、意志を尊重してきた。

 この選択からもモイネロが今回のWBCを最優先に照準を合わせていたことが分かる。今大会はセットアッパーとして4試合に登板して防御率0・00、奪三振率10・38。強い愛国心が結実した母国の4強躍進に、左腕も心地よい達成感を抱いているはずだ。