〝綱消滅〟だ。大相撲春場所6日目(17日、大阪府立体育会館)、大関貴景勝(26=常盤山)が元大関で平幕の御嶽海(30=出羽海)に押し出されて3敗に後退。今場所後の横綱昇進は、ほぼ絶望的な状況となった。3日目に左ヒザを負傷した影響もあり、本来の力を発揮できずにV戦線から事実上の脱落。角界内では来場所以降の再挑戦にも、悲観的な見方が浮上している。

 この日も貴景勝は3日目に痛めた左ヒザにテーピングを施して土俵に上がった。立ち合いで御嶽海に当たり勝ったものの、相手の圧力に押し戻されて後退。いなしやはたきも決まらず、最後は引いたところで一気に押し出された。取組後は報道陣の取材に応じず、沈黙を貫いた。

 土俵下で審判長を務めた粂川親方(元小結琴稲妻)は「立ち合いは良かったけど、足のせいもあるのか、押し切れていない。引く悪い癖が出た。本人にしか分からないが、ヒザの影響もあると思う。もう一つ、二つ足が出ていない」と指摘。綱取りに関しては「厳しいと言えば、厳しい。もう負けられない状況」と困難な見通しを示した。

 昨年6場所の優勝ラインは13勝が2回、12勝が4回。先の初場所は貴景勝が12勝で優勝している。計算上は残り9日間を全勝すれば12勝に到達するものの、現状では逆転優勝の可能性は限りなくゼロに近い。横綱昇進直前の場所で6日目までに3敗した例はなく(1場所15日制以降)、今場所後の横綱昇進はほぼ絶望的な状況となった。

 今場所は、横綱照ノ富士(31=伊勢ヶ浜)が両ヒザの故障などの影響で休場。一人大関の責任と重圧を背負う半面、対戦相手は全て格下と恵まれた条件が揃っていた。一方で、角界内では貴景勝にとって今回が事実上の「ラストチャンス」との観測もあった。今から1年以内に、幕内上位の番付が一変している可能性が高いからだ。

 現三役陣では関脇豊昇龍(23=立浪)や小結琴ノ若(25=佐渡ヶ嶽)らが次の大関の座をうかがっており、新入幕の幕内金峰山(25=木瀬)と幕内北青鵬(21=宮城野)は早期の三役入りの期待がかかる。その下の十両には大関復帰を目指す朝乃山(29=高砂)や〝令和の怪物〟こと落合(19=宮城野)らも控えている。

 くしくも、貴景勝は今場所の新番付発表会見で「相撲人生の中で何度もあるチャンスではない」と話していた。実際、最初の綱取り挑戦から今回までに丸2年を要している。まだ26歳とはいえ、今場所と同じ状況が再び巡ってくる保証はない。かねて大横綱の白鵬(現宮城野親方)は「強い人は大関になる。宿命のある人が横綱になる」と語っている。果たして、その〝宿命〟は貴景勝にあるのかーー。